メディア媒体が脳を脅かす~後編~ 院長&スタッフブログ | 医療法人すずらん まえやま内科胃腸科クリニック

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メディア媒体が脳を脅かす~後編~

 今回三回目になりますが、『脳内汚染』という本から、メディア媒体が脳に及ぼす悪影響について紹前頭葉.jpg介いたします。中編では、ゲームが麻薬に匹敵する依存性があること、ゲーム開始年齢が低いほど子供の健全な成長に悪影響を及ぼしやすいこと、メディア媒体が現代人の心を幼くし自我理想像をゆがめていること、などを紹介しました。この後編では、メディア媒体と無関係で暮らすことができない現代社会にあって、どのような関わりが望ましいのかという著者の提言も含めて、お話しいたします。
ゲームやネットが前頭葉の機能を低下させる!
 人間が人間である一番のゆえんは、前頭葉、中でも最も前側に位置する前頭前野の発達です。前頭前野は人間の脳の約三分の一を占めており、サルから人間への脳の進化は、脳全体が大きくなったのではなく、前頭前野が前側にせり出す形で発達したことと考えられています。前頭前野の成熟は、他の脳の領域と比べて非常に時間を必要とし、大人になるまで発達し続けます。前頭前野は、対象を選択し、注意を維持し、目的をもった行動を行っていくとともに、様々な情報や情動を統合し、決断を下し、危険を回避し、行動をコントロールしていく、まさに「理性の座」というべき機能を担っています。
 寝屋川調査では、ゲームやネットを長時間やる子供たちにおいて、そうでない子供たちよりも、統計的に有意に高い割合で認められた前頭葉の機能低下に関係する項目十二が示されています。①「あまり考えずに行動したり、危険なことをしてしまう」慎重さの欠如。②「イライラしやすく、かっとなると暴言や暴力になってしまう」爆発性。③「じっと座っていることができず、たえず動きたがる」多動、抑制欠如。④「怒ったり、泣いたり、感情の波が激しい」気分易変性。⑤「反省するのは苦手である」自己反省力の低下。⑥「飽きっぽく計画的に物事ができない」無計画、持続的努力の困難。⑦「気が散りやすく、よそ見、忘れ物、ミスが多い」注意散漫。⑧「自分の興味のあることにゲーム時間と前頭葉機能.jpgは集中する」関心の限局性、固執性。⑨「人付き合いや集団は苦手である」非社交性、孤立傾向。⑩「一方的に喋ったり、場違いな発言や行動をしてしまう」共感性、状況判断力の低下。⑪「自分には特別なところがあると思う」自己中心性、責任転嫁。⑫「何事にも気力がなく、興味ややる気がわかない」無気力・無関心。
 これら項目に関する質問をスコア化し、平均得点を求めて「前頭葉機能スコア」とし、ゲームなどのメディア利用時間との関係をグラフにしたものを示します。図19が生徒本人による回答をもとに十項目より算出したものです。グラフを見ると、ゲームプレイ時間が長くなるにつれて低下が目立ち始め、三時間、四時間以上の子供では、顕著な前頭葉機能の低下がみられることが分かります。
ADHD、アスペルガー障害、学級崩壊の問題
 少し専門的な話になりますが、現代における子供たちの心の発達の問題にも触れておく必要があります。ADHDとは「注意欠陥/多動性障害」の略称ですが、今やADHDの子供が児童外来にあふれているようです。このタイプの子供たちは、授業中に周囲の状況と無関係に発言したり、立ち歩いたり、時には教室からいなくなったりします。クラスにADHDの子供が二、三人いると、授業が成り立たなくなる学級崩壊が起こりやすくなります。当初、ADHDは高い遺伝性のあることから、脳の構造的、生物学的要因に原因があると考えられてきました。ところが、この三十年程前よりADHDの子供が急速に増えたことから、遺伝性の問題だけではなく、環境的な要因が非常に大きく作用していると考えられるようになりました。
 ワシントン大学の小児科医のチームは、一歳と三歳の時にどれくらいテレビを観たかを調べ、その子供たちが七歳になった時点で、注意力の評価を行いました。その結果、一歳、三歳の時点でテレビによく接していた子供たちは、注意力に多くの問題があることが分かりました。テレビは絶え間なく場面が変わる性質を持つため、子供たちは魅入られたように画面を見つめます。ところが、そのために短いタイムスパンで注意を集中することに慣れ、長い時間の注意の集中が困難になります。テレビは便利なお守り役であるため、お母さんは家事の合間についつい子供にテレビを見せてしまいがちです。しかしながら、もともとADHDの素因を持った子供ではその症状を助長することになるため、注意が必要です。
 広汎性発達障害は、①対人関係における消極性、②相互的なコミュニケーションの障害、③興味や関心の限局性やこだわりの強さを特徴とする心の発達障害です。広汎性発達障害の中で、知能が正常範囲で、言葉の発達にも障害がみられないものを「アスペルガー障害」と呼び、男性では数%の罹患率で、現代では比較的よく見られる病気になっています。対人関係や集団生活が円滑にいかず、周囲の理解がないと孤立したり、いじめのターゲットにされることもあります。その一方で、集中力や狭く深い興味を活かして、研究者や技術者として成功することもあり、実際に、学者や研究者には、アスペルガー障害やその傾向を持った人が多いといわれています。
 ADHD、アスペルガー障害などの脳の発達障害がこれほど身近になったのはなぜでしょうか?著者は現代の若者が、前頭前野などの脳の発達にとってマイナスになるゲームなどのメディア媒体に、より早い時期からさらされているためと述べています。
メディア漬けから子供たちを守るには?
 つい先日テレビで、日本人のギャンブル依存症罹患率が世界一と紹介されていました。日本独特のパチンコが主要な原因と思いますが、何とも恥ずかしいデータです。また、2020年東京オリンピック開催に併せて、法律を改定してカジノを日本に作ろうという報道もされていました。経済効果は高いかもしれませんが、カジノを誘致すればギャンブル依存症の日本人を増やすだけですし、子供たちにも悪影響であることは目に見えています。良識のない日本人が増えていることを憂慮さぜるを得ませんが、そう言ってばかりもいられません。著者は、競馬やパチンコに適用されているルールが最低限必要だと主張しています。つまり、未成年者や学生に、高い嗜癖(しへき)性や有害な内容を含むゲーム、ビデオ、ネットサイトなどの利用を禁じる法制度の確立をすべきと訴えています。メディアを提供する企業としては、収益を優先させるあまり、このような法律の成立には抵抗があると予想されますが、現実に起きている子供たちへの被害や影響の大きさを考えると、その様な法律は必要ではないでしょうか。
 この『脳内汚染』の著者は、少年院に勤務する精神科医です。そのような背景もあって、心に問題のある子供達を施設静寂.jpgや病院で診る機会があり、大変興味深いことを述べています。たとえば、施設に来た子供たちが元気になり、社会性を回復していく上で、様々な働きかけとともに、ゲームなどが「できない」環境が重要な役割をしていると述べています。社会にいる時は毎日数時間をメディアに浸っていた子供たちは、代わりに現実の人間の中でもまれながら過ごすことになります。その体験は、一人でゲームをしながら部屋にこもっているよりも、不快でわずらわしいことに思えますが、そうした日々の中で、彼らは人と交わることの楽しさや喜びに目覚めるそうです。病院に入院した若者たちも、ゲームやネットが思うようにできない、好きな番組が「見られない」環境で、最初はイライラしたり、人となじもうともしませんが、そのうちに憑きものが取れたように表情が柔らかくなり、人との交流を楽しむようになるそうです。施設や病院の話は決して特殊な例ではなく、すべての燃え尽きた心の回復に当てはまると著者は言います。宗教的な場所であれ、修練のための場所であれ、そこには過剰な刺激と情報から守られた『静寂』があり、それによって程よく不足した状態が生まれ、そこから再び生きようとする力が蘇るのだという著者の言葉には説得力を感じます。
 一般の家庭ならテレビを付けっ放しにせず、見たい番組が終わったらさっさとスイッチを消す(これは私の親からされていました)、せめて出かけたり旅行に行った時は、ゲームやテレビはなしという取り決めをする、などは実行可能なことではないでしょうか。最後に印象的な著者の言葉を引用して、このシリーズを終わりにしたいと思います。
 『絶えず情報に脳をさらし続けることをやめ、刺激のない状態の静けさや、安らかさを、心と脳に取り戻してやることが大切なのだ。新たな刺激を際限なく求め続けることは、長期的に見れば、心をどんどん鈍麻させ、幸せを感じにくい心を作り出してしまう。ささやかな楽しみが楽しみとして感じられることこそが、幸せの本質なのである。』
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