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 前回号で3月からの道路交通法改正により、75歳以上の高齢運転者の認知症検査が強化されたお話をいたしました。先日、これに関する警察庁発表の報道がありましたので、
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ご紹介いたします。3月から5月末までに認知症のおそれがあると判定された高齢運転者は1万1617人に上り、そのうち1299人が医療機関を受診し、14人が免許停止となりました。また、3月から5月末までの75歳以上の運転免許の自主返納は5万6488件に上り、年間の自主返納は前の年と比べ大幅に増える見通しとなったようです。今後、高齢者による交通事故が減少に転じていけばいいですね。さて、今回は現在行われている認知症の治療、そして今後期待されている治療についてお話しいたします。
現在の認知症治療薬
 日本国内では現在、4種類の薬が認可されていますが、残念ながら認知症の根本的な治療薬ではなく、病状を遅らせるお薬です。2つのグループに分けられ、1つがア
セチルコリンエステラーゼ阻害剤です。アリセプト(ドネペジル)、レミニール、リバスタッチパッチ/イクセロンパッチ(張り薬)の3つがあります。認知症では、脳内での神経伝達物質アセチルコリンが減少しているため、このアセチルコリンを分解するアセチルコリンエステラーゼという酵素を阻害することで脳内のアセチルコリンを増やし、認知機能を高めるお薬になります。副作用として嘔気や下痢などの消化器症状、興奮などの精神症状があります。張り薬では、貼付部位のかゆみや発赤などの皮膚症
アリセプト.jpg
状があります。保険上適応となるのは、現在のところアルツハイマー型認知症およびレビー小体型認知症(アリセプトのみ)です。
 もう1つのグループに属するのがメマリーです。認知症患者の脳内では、異常な蛋白質によって神経伝達物質であるグルタミン酸が過剰な状態になっています。メマリーは過剰なグルタミン酸の放出を抑えて、脳神経細胞を保護する働きがあります。副作用として、めまいやフラツキがあります。アリセプトとは作用機序が異なるため、アルツハイマー型認知症が中等症まで進行した時に、アリセプトにメマリーを併用するという治療も行われています。
薬物療法以外の認知症治療
 これらのお薬を使って、認知症の進行を抑えるというのが現在の治療の主流になっていますが、副作用により薬が使用できない場合もあります。認知症の前段階である「軽度認知障害(MCI)」の段階から薬物療法を開始した方が予後良好と考えられており、実際の医療現場でも、早期に薬物療法を開始する場合が多いと思います。
 最近、国立長寿医療研究センターが発表した興味深い研究結果があります。認知症でない65歳以上の愛知県大府市の住民約4200人を4年間追跡したものです。国際的なMCI判定基準をもとに検査したところ、研究開始時点で約740人(18%)がMCIと判定されました。ところが、4年後に同じ検査を行うと、MCIだった人の46%が正常範囲に戻っていたというのです。MCIと判定されても、約半分の方が正常に戻ったということは、加齢以外の別の因子が働いたということだと思います。おそらく、MCIと判定された方々あるいはその周囲の人の働きかけで、脳活性化リハビリテーション(いわゆる脳トレ)が行われた結果ではないかと推察します。私の患者さんの中にも、副作用で薬物療法ができないアルツハイマー型認知症の患者さんで、病状があまり進行しない、以前よりも病状が良くなっている方が数人いらっしゃいます。脳活性化リハビリテーションが効果を上げているのでしょう。脳活性化リハビリテーションについては、また改めて取り上げたいと思っています。
開発中のアルツハイマー治療薬
 アルツハイマー型認知症の初めての治療薬アリセプトを開発したのは、日本の製薬会社エーザイです。アリセプトは前述した通り、認知症の進行を遅らせるいわゆる「対症療法」の治療薬でした。そのエーザイが今、3年後の2020年以降の販売に向けて準備を進めている2つの新薬があります。これらの新薬は、対症療法ではなく根本治療になるお薬として期待されています。
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 正常な脳から、アルツハイマー型認知症が発症するまでの過程の模式図を示します。鍵を握っているのが、「アミロイドβ」と呼ばれる蛋白質と、これが凝集してできる「アミロイドβフィブリル」という物質です。これが蓄積すると、脳に黒い斑点(老人斑)ができ、このアミロイドβフィブリルと老人斑が、神経細胞を殺していると考えられています。
 世界中の製薬会社は、左図に示した通り、脳にダメージを与える物質が生成される各過程に介入して、異常な物質の生成を抑える薬を開発しています。エーザイは、バイオベンチャーの米バイオジェンと共同でBACE阻害剤と抗アミロイドβプロトフィブリル抗体を開発しました。前者は治験の最終段階であるフェーズ3、後者はフェーズ2の状況です。これらの根本的な治療薬が登場すると、アルツハイマー型認知症を早期に発見し、早い段階から治療を始めれば、症状が深刻になる前に寿命を終えられる患者、つまり健康寿命の長い方々が増える可能性が出てきます。つまり、認知症患者を社会の「お荷物」から「稼ぎ手」に変えることができるかもしれません。
日本の国民皆保険を守ろう!
 私が医者になってから、色々な治療薬が出てきました。生活習慣病の治療薬、抗癌剤など、創薬により、多くの人々がその恩恵を受け、健康寿命を延ばしていると実感します。日本が世界に誇れる長寿国になっているのは、国民全員が平等に医療の恩恵を受けられる「国民皆保険」のお陰だと思います。この素晴らしいシステムを継続するためには、国民一人一人が節度をもって、医療保険を利用すべきでしょう。あちこちの医療機関を受診しまくる、医療保険を利用して様々な薬の投薬を医師に迫るなど、限りある医療財源を浪費するようなことは慎むべきと感じております。

 前回号では、①認知症とは?②認知症を疑ったらどうする?③認知症は誰もが避けられない、だから健康長寿を目指そう、といった内容をお話しいたしました。折しも先月4月下旬に京都市で認知症国際会議が開催されました。認知症は今や地球規模の問題になっています。社会が認知症患者とどう向き合っていくのかが話し合われました。認知症に優しい社会の実現には、当事者の視点が欠かせないという意見が多く出されたようです。今回は日本において、社会が認知症患者とどう向き合っているのか、また、今後どう向き合っていったらいいのか、などについてお話しします。
高齢者による交通事故の問題について
 皆さんご存知のように、高齢運転者による交通事故が相次いでいます。警察庁によると、日本全体では交通事故による死亡件数は減っています。ところが、75歳以上の高齢運転者による死亡事故件数の全体に対する割合は2005年7・4%であったのに対して、2015
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年では12・8%までに増えています(左図参照)。自動車大手各社ではここ数年、軽自動車を含む新車への衝突防止機能の搭載を加速させています。ただし、ほとんどの中古車には搭載されていないため、高齢者の手に届くほど十分に普及していないのが実情です。
道路交通法の改正について
 相次ぐ高齢者による交通事故が社会問題化したのを受けて、今年3月道路交通法が改正されました。従来は75歳以上の運転者は、3年に1度の免許更新時に認知機能検査を受けることが定められていました。新しい改正法では、免許更新時に加えて、信号無視や逆走など認知症の影響とみられる18項目で違反した場合も認知機能検査が義務付けられました。この検査では①「認知症のおそれがある」、②「認知機能の低下のおそれ」、③「認知機能の低下のおそれなし」の3段階に分類されます。①「認知症のおそれがある」と判定された場合は医師の診断を受けなければなりません。認知症と診断されれば、免許取り消しや停止となりますが、これは従来の法律と変わっていません。①で認知症と診断されなかった高齢者、②③の高齢者は、分類に応じて2時間から3時間の講習(実車指導、個別指導)を受けることになります。
新しい改正法の問題は?
 今回の改正法は認知機能をこまめにチェックする機会を設けたことが特徴で、一定の効果が期待されています。一方で、医師側からは心配の声が上がっています。対象範囲が拡がったことで、診察数が増え、ただでさえ認知症を専門とする物忘れ外来は予約がいっぱいなのに、対応できなというわけです。また、認知症でないと診断された高齢者が事故を起こした場合、刑事上の責任はないものの、民法上の責任を問われる可能性があるからです。私自身も患者さんから運転免許更新の相談を何件か受けたことがありますが、その方の生活に関わることでもあり、社会的な責任もある事柄であるため、認知症専門医に紹介させていただいています。
 日本では、認知症と診断されれば一律免許取り消しとなりますが、オーストラリアのビクトリア州では、認知症の人でも実際に運転してもらうなどして個々の能力を判断し、運転を認めている所もあります。日本でも初期の認知症であれば、一人一人の運転技量等を確認し、運転の可否を総合的に判断する仕組み作りの構築を求める声が上がっています。一方で、日本の社会では依然として「認知症の方は危ない行動をするに違いない」という思い込みも根強くあり、なかなか難しい問題かと思います。
全国に広がる「認知症カフェ」「認知症サポーター」
 2015年政府は「認知症の人やその家族の視点の重視」などを理念とする国家戦略として「新オレンジプラン」を発表しました。その柱となっているのが「認知症カフェ」です。「オレンジカフェ」とも呼ばれますが、常設の店舗ではなく、自治体やNPO法人などが開催する交流の場になっています、現在、全国で2000カ所以上あります。私が10年来往診を続けている認知症で寝たきりのYさんのお宅では、1年半前からこの「認知症カフェ」を個人で始めています。Yさんの介護をずっと続けている娘さんは、「認知症とどう向き合えばいいか悩んでいる家族は多いです。同じ境遇だからこそ分かりあえるし、助言もできるし、支え合うことができます。」と話していました。
 先月京都で開催された認知症国際会議で日本から発表されたのが「認知症サポーター」です。恥ずかしながら、私も新聞記事で今回初めて知りました。十二年前に厚生労働省が始めた、認知症を正しく理解し、偏見を無くすための取り組みです。認知症の症状や本人への接し方、場面に応じた支援の方法について学ぶ約九十分の無料講座を受講すると、認知症サポーターと認定されます。日本ではこれまでに、自治体や職場などで約26万5千回の講座が開かれ、約883万人のサポーターが生まれているそうです。日本発の認知症サポーターは世界にも広がり、日本はじめ十一カ国で活動が行われています。認知症の家族がいなくても、認知症患者に優しい社会を作っていくため、認知症サポーターがどんどん広がっていけばいいですね。皆さんも受講してみませんか。お問い合わせは、「全国キャラバン・メイト連絡協議会」TEL03‐3266‐0551になります。
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2025年問題にどう向き合っていくのか?
 あと8年後の2025年には、団塊の世代が一斉に75歳以上になります。国民の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上という、人類が経験したことのない超・超高齢化社会となります。10人に1人が認知症という時代がすぐそこまで来ています。日本は3年後の東京オリンピックで大いに盛り上がることでしょう。ですがその後、若者が減り老人が増え、物作り日本を支えてきた生産人口は大幅に減り、介護や葬儀に携わる人が激増する、まさに国全体が老境化する状況が心配されています。どうすればいいのでしょうか?認知症が誰でもなる病気であるならば、自立を望む当事者には必要なサポートをして働いてもらう、加えて、介護離職者を増やさないような柔軟な働き方を実現していく働き方改革が必要になります。日本が認知症に負けないために大切なのは、認知症患者を社会のお荷物と考えるのではなく、社会の担い手の一員であるという認識を持つことではないでしょうか。
 次回は、今期待されている認知症の治療についてお話しいたします。
 クリニックを開業してこの4月で十六年目を迎えました。開業当初より通院してくれているMさんという九十一歳の男性の方がいらっしゃいます。背筋がすっと伸びていて、声もしっかりされていて、七十歳でも通るような若々しい方です。Mさんは診察の度に「すずらん新聞はいい。いつも楽しみで読ませてもらっている。」と誉めてくれます。4月の初めに受診された時「先生、今度は認知症のことを書いてくれや。」と言われました。何度か認知症のことはこの新聞でも取り上げているのですが、Mさんの頼みとあっては断れません。『認知症と向き合う』と題して、3回に渡ってお話したいと思います。
認知症とは? 認知症を疑う症状は?
 外来で七十歳以上の患者さんともなると「最近、人の名前が出てこなくなった。物の置き忘
れが多くなった。認知症が心配だ。」という声を聞きます。そんな時によく行うのが欧米では標準的な認知症スクリーニング検査であるMMSEです。Mini-Mental State Examinationの略称で、言語性設問の他に、紙を折る問題や文章や
認知症①.jpgのサムネール画像図形を書く問題などの動作性の設問があります。総計11問で30点満点になっています。24点以上で正常と判断します。MMSEに加えて、頭のCT検査も行います。ほとんどの場合、MMSEは合格点で、頭のCT検査では年齢相応の委縮がある程度で、認知症とは診断されない、
いわゆる加齢に伴う物忘れと診断する場合が多いです。MMSEが23点以下で、頭のCT検査で萎縮が目立ったり、小さな脳梗塞の跡が多発している場合は認知症を疑い、専門医に紹介することになります。
 認知症とは「脳の病変によって、記憶を含む複数の認知機能が後天的に低下し、社会生活に支障をきたすようになった状態」です。人の名前がなかなか出てこないくらいは心配ありません。ところが、自分が体験したことそのものを忘れてしまうという状態は、本人にとってその体験は存在しない、つまりヒントがあっても思い出せないことになるので、認知症が疑われます。記憶障害の他に大切なポイントは、その人らしさが失われたかどうかという点です。以前は問題なくできていた仕事や家事がうまくこなせなくなった、通い慣れた道なのに迷うことがある、身だしなみを気にしなくなった、などです。
 新しい事が覚えられないので、日常的に同じことを繰り返し聞いてくる。物をしまった場所を忘れるので、探し物が多くなり、やがて誰かが盗ったという妄想へとつながりやすくなります。やる気を失って、うつ状態になる場合もありますし、においに鈍感になる点も前兆として大切です。
 認知症の初期には、本人は戸惑いや不安を自覚することが多く、何とか取りつくろって、その場を切り抜けてしまうことが多いです。相手の話に合わせて「そうそう、それだった」などと思い出したふりをする場合もあります。ですから、電話での応対では多少やり取りに不自然なところがあっても、それなりにしっかりした会話ができてしまいます。認知症を初期に見つけるには、数日一緒に生活してみて、自分の目で色々を確かめることが大切です
認知症を疑ったらどうすればいいか?
 私が定期的に診ている患者さんの家族から、時々「最近物忘れが多く、認知症が心配だ」とこっそり連絡があります。この場合は、受診した際に「何々さん、お歳もお歳だし、脳の働きもチェックした方がいいから、ちょっと検査しておこうかね」とお話して、前述したMMSEと頭のCT検査を行います。このパターンは大丈夫です。ところが、日頃かかりつけ医がなく、自分の親に認知症が疑われた場合は、ちょっとやっかいになります。たいていの親は、自分の子供に「認知症では?」と言われれば怒り出すことが多いからです。親としてのプライドがあるから当然と言えば当然です。だからと言って、本人にごまかして認知症専門の医療機関に連れて行った場合、初期であればあるほど、認知症の人はすぐにだまされたことに気づき、その後はどんなに説得しても病院には行かない可能性があります。家族との信頼関係が崩れ、家庭内では家族を攻撃するような悲惨な状況になることもあります。
 どうすればいいのでしょうか。いきなり認知症専門の医療機関に連れていくようなことはせず、近場の開業医の先生のところに健康診断という口実で受診してもらって、認知症の検査も合わせてやってもらうというのがいいかと思います。そこで、認知症が疑われれば、改めて専門の医療機関に紹介してもらう、これが無難な方法かと思います。そういった意味で、定期的にかかるような病気がなくても、風邪などをひいた時に面倒をみてもらう、かかりつけ医を作っておくことは大切といえると思います。
誰もが認知症からは避けられない!
 ちょうど1年前のすずらん新聞第169号『認知症予防と健康長寿のツボ~前編~』でも取り上げました。2012年での認知症患者は462万人でしたが、今から8年後
認知症患者推計2.jpgのサムネール画像
の2025年には認知症患者は約1・5倍の700万人になると推計されています。認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)を加えると、約1300万人となり、65歳以上の3人に1
人は認知症患者とその予備軍となるわけです。日本を代表する神経内科医で、東京女子
医科大学名誉教授の岩田誠医師は「人間には二通りの生き方しかない。認知症になるまで長生きするか、その前に亡くなるか。」と。長生きしたいなら、できるだけ認知症の期間を短くして、
健康長寿を目指すしかないわけです。そこで、私が提案したのが『認知症予防と健康長寿のツボ五箇条~長寿遺伝子を活性化させる生活を~』です。詳しくは第169号、170号を参考にしていただきたいと思います。
 次回は、認知症患者の増加に伴う社会的な問題を取り上げてみたいと思っています。



 前回は緊張型頭痛、片頭痛についてお話しいたしました。今回は新しい疾患概念『脳過敏症候群』を取り上げます。私自身も今回、頭痛の勉強をし直して初めて知った疾患名です。私の診ている患者さんの中にも、この病態に当てはまるような方もいらっしゃると思いましたので、紹介したいと思います。
『脳過敏症候群』とは?
 2011年、東京女子医科大学脳神経外科の研究チームが、頭痛に関する長年の臨床経験から提唱した、頭痛の診断の新しい考え方です。
 脳過敏症候群は、片頭痛などの一般的な頭痛もちの患者さんが、長期間くり返し鎮痛剤を使い続けるなどの不適切な対応を続けることで、引き起こされます。反対に、「頭痛なんか病気じゃない、がまんしていれば治るはず」と何の治療もせずに放置していても引き起こされます。日本では欧米に比べると頭痛を病気として認識していない方が多く、慢性的な頭痛があるのに医療機関を受診しないケースが多いようです。
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 脳過敏症候群の症状としては、耳鳴り、めまい、難聴の他に、不眠症状、不安感、抑うつ感などがあります。物忘れが激しくなる、イライラして攻撃的になる、奇行を繰り返すというケースもあります。また、認知症、うつ病、パニック障害だと思われていた人が、実は脳過敏症候群だったというケースもあるようです。
 私が診てきた患者さん、特に女性に多いのですが、前記のような症状があって、頭のCTやMRI検査でも異常がなく、耳鼻科で診てもらっても特に異常を言われないという患者さんがこの病態に当てはまるのではないかと思っています。
脳過敏症候群の原因
 一般的に、片頭痛の痛みは、年齢を重ねるとともに減弱していくことが多いです。片頭痛は、脳の血管が異常に拡張して、血管周囲にあるセンサーの役目を果たしている
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三叉神経への刺激が元になり、大脳が興奮することが原因で起こります。ところが、中高年になると、脳の血管は動脈硬化を起こし、異常な血管拡張が起こりにくくなります。そのため、三叉神経への刺激情報を伝わりにくくなって、痛みが減弱するというわけです。
 しかし、痛みが減弱しても大脳の興奮が鎮まったわけではありません。片頭痛の度に大脳が興奮を繰り返すと、後頭葉や側頭葉、さらには視床という感覚の中枢から、小脳というめまいや平衡感覚に関連した部位にその刺激情報が繰り返し伝えられます。結果として、脳の各部位は正常に働かなくなり、前述したような脳過敏症候群の症状が引き起こされると考えられています。
脳過敏症候群の診断
 どの診療科を受診しても、「原因がわからない」「不定愁訴」などといわれ、たらい回しにされ、症状を抑えるための薬を次々に処方されてきた患者さんが多いようです。そうした症状も脳の過敏性の高さによるものだと分かれば、適切な治療も可能です。
 まず、大切なのはこれまでの症状や経過などをきちんと聴取する問診です。次に症状に応じて、頭のCT検査、MRI検査を行って、他の病気でないかを調べる除外診断が必要です。その上で、脳過敏症候群が疑われた場合は、脳波検査を行います。脳波検査は、覚醒時と時に睡眠時の記録をそれぞれ20分程度行います。あらゆる周波数の光刺激を行い、後頭葉からの刺激波が脳のどのあたりまで波及するかを観察し、診断していきます。
 南信地区で、こういった診断ができるのは、日本頭痛学会認定頭痛専門医のいる昭和伊南総合病院脳神経外科や、瀬口脳神経外科病院になります。自分が脳過敏症候群ではないかと思われる方は紹介いたしますので、お申し出ください。
脳過敏症候群の治療
 脳過敏症候群の治療は、根本にある脳の興奮を鎮め、過敏さを和らげていく薬物療法が基本になります。抗てんかん薬、抗うつ薬(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)などを投与し、まず、脳の興奮を抑えます。脳の興奮が鎮まると、一時的に本来の頭痛発作が出ることもありますから、その際は前号で紹介したトリプタン製剤を服用します。元の片頭痛発作が頻回になることはないそうです。
 慢性的な頭痛に悩んでいても、医療機関を受診せず、市販の頭痛薬で対処している方が多いかと思います。月に1~2回程度の頭痛発作であれば問題ありませんが、10回以上の発作がある方は、医療機関を受診しましょう。また、「薬を飲まずにがまん!」という対応は、さらに問題です。過去にそのようなことをしていて、耳鳴り、めまい、難聴、不眠、不安感などの症状がある方は、脳過敏症候群に移行している可能性があります。医師にご相談ください。
 クリニックでは、頭痛の訴えで来院される患者さんをよく見かけます。脳腫瘍ではないか、脳出血ではないかと気にされる患者さんには、頭部CT検査を行います。脳に何か異常があることはほとんどありません。開業して十五年になりますが、脳腫瘍が見つかったのはわずかに2例のみです。頭痛については今から十一年前、第52号『頭痛もちは三千万人』というタイトルでこの新聞で取り上げました。最近の知見も交えて、今回と次回の2回に分けて頭痛をテーマにお話しします。
 現在の日本では、いわゆる"頭痛もち"と呼ばれる方は約四千万人に及んでいます。そのうち7~8割が『緊張型頭痛』、2割が『片頭痛』です。もう一つの『群発頭痛』を合わせて、頭痛もち三兄弟といいますが、群発頭痛は年間で1万人に1人という発症頻度です(私は出合ったことはありません)。今回は、一般的な前二者を取り上げます。
ストレスが引き起こす『緊張型頭痛』
 緊張型頭痛は頭痛もちの7~8割を占めます。中高年に多く、女性にも男性にもよくみられる頭痛です。後頭部から首筋にかけて痛むことが多いですが、頭全体や鉢巻き
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様に痛むこともあります。痛み方は、頭を締め付けられような圧迫感、緊迫感、頭重感が特徴で、「鉢巻きをしているような」、「帽子をかぶされているような」、「頭に重石をのせられているような」感じになります。めまいやフラツキ、目の疲れ、全身のだるさを伴うこともあります。頭や首の周りの筋肉のコリ、精神の緊張から起こる頭痛で、頭痛の頻度は月に数回から毎日と様々です。午後から夕方4時くらいにかけて増強する傾向があります。片頭痛が発作的に起こるのに対して、緊張型頭痛はいつとはなしに始まり、だらだらと持続します。片頭痛は「夕立」、筋緊張型頭痛は「梅雨空」のような頭痛とたとえられます。
 緊張型頭痛は筋肉の緊張が原因の頭痛ですので、マッサージや入浴、運動によって症状の軽快が得られます(片頭痛では逆に増悪します)。肩こりや、あごの痛みや開口障害のみられる顎関節症を伴うこともしばしばです。緊張型頭痛は、精神的なストレスや身体的なストレスの両方が誘引になって起こります。ストレスにより頭の回りの筋肉が緊張すると、筋肉の血液の流れが悪くなり、乳酸やピルビン酸といった老廃物が貯まってコリの状態となり、痛みを起こすようになります。この痛みがさらに血流を悪くしたり、ストレスを助長するため悪循環に陥り、頭痛がだらだらと続くことにもなります。一日中コンピュータに向かう仕事をする人などでは、首や頭の回りの筋肉に負荷がかかり、この身体的なストレスも頭痛を引き起こします。ゲームやスマートフォンの普及とともに、若年層でも緊張型頭痛が増えているようです。枕が高すぎることも緊張型頭痛の原因になります。
緊張型頭痛の薬物治療
 痛みを緩和させるための鎮痛剤を用いるほか、筋肉の過剰な緊張をゆるめる筋弛緩薬(テルネリン、ミオナール)や抗不安薬(エチゾラム、セルシンなど)が用いられます。鎮痛剤は服用し過ぎると、胃腸障害や肝機能障害を起こすことがありますので、注意が必要です。筋弛緩薬や抗不安薬は眠気の副作用が出ることがあります。また、抗うつ薬を使って、痛みの閾値をアップさせ、痛みの過敏さを和らげる治療が有効なこともあります。日頃から、首や肩、背中が張ってきたら、体を動かして筋肉の緊張を解きほぐして、頭痛に至らせないようにすることが大切です。
女性に多い『片頭痛』
 『片頭痛』というくらいですから、頭の片側が痛むことが多いのですが、実は両側が痛むことも少なくありません(4割で両側が痛む)。頭の片側のこめかみから眼のあたりが痛み、ひどくなると頭全体が痛みます。後頭部が痛む片頭痛もあります。頭表面を走っている血管が腫れて痛む頭痛のため、脈が打つように「ズキンズキン」、「ガンガ
頭痛③.jpg
ン」といった頭痛になります。「頭の中に心臓があるようだ」と訴える患者さんもいます。痛みがひどくなると脈打つ感じではなく、持続的な痛みとなります。片頭痛の半分の患者さんでは拍動感を感じません。
 片頭痛は女性に多く(男性の4倍)、生理や排卵に関連して現れることが多く、妊娠中には逆に頻度が少なくなります。思春期ころから多くなり最盛期は30歳代で、60歳を過ぎると少なくなります。月に数回、夕立のように発作的に起こります。日常生活に支障を来たすような痛みで、寝込んでしまう患者さんも多いと思います。階段の昇降、入浴などの日常的な動作、運動、首や肩のマッサージなどにより頭痛が増悪するのが片頭痛の重要な特徴です。発作は4時間から72時間持続し、しばしば吐き気や嘔吐を伴います。光や音に敏感になるのも特徴です。光がまぶしくなり、周囲の音や声が頭にガンガン響くため、発作中は暗い静かな所を好みます。片頭痛の20%では「閃輝暗点(せんきあんてん)」と呼ばれる前兆が現れることがあります。視界にチカチカした光(閃輝)が現れ、これが拡大して元のところが見えにくくなります(暗点)。閃輝暗点は20~30分続き、これが終わるころから頭痛が始まります。
チョコ①.jpg 片頭痛の誘因は人によって様々です。ストレスは有力な誘因ですが、ストレス中は血管が緊
張しているため頭痛は起こらず、ストレスから開放された時に血管が緩んで片頭痛が起こります。ストレスが開放される週末になると片頭痛が起こり、楽しみをフイにしてしまうこともあります。血管を緩めるチョコレート、ワインなどのアルコール、チーズ、柑橘類、ナッツなどの飲食物も誘因になります。血管を拡げる高血圧や狭心症の治療薬も片頭痛を誘発します。人ごみや騒音、まぶしい光なども原因となります。
 こういった誘因が顔面や頭部を支配している知覚神経『三叉神経』を刺激します。すると、三叉神経の終末部から痛みの原因物質が血管に放出され、この物質が血管の拡張と炎症を招き、頭痛が起こるわけです。
片頭痛の薬物治療
 片頭痛の発作時に欠かせない薬がトリプタン製剤(マクサルト、ゾーミック、イミグランなど)です。痛みだけでなく、脳の興奮を抑える片頭痛の特効薬です。服薬のタイミングが大切です。生あくび、肩こり、光・音・においに敏感になる、吐き気がするなどの予兆症状や、閃輝暗点の前兆があったら、すぐに服用します。予兆や前兆がない場合は、痛み始めたら早めに服用しましょう。片頭痛の場合、痛みがピークになってからの内服では、特効薬と言えども効きません。まずは1錠服用して、それでも十分な効果がなければ、2時間以上間隔をあけて、もう1錠服用します。トリプタン製剤は値段が高く、3割負担で1錠あたり200円から300円です。ですが、発作のたびにトリプタン製剤で脳の興奮をきちんと取り去れば、将来の脳過敏症候群(次号でお話しします)への移行を防げます。それを考えますと、トリプタン製剤による治療は大切ということになります。

 

油の摂り方変遷.jpg「油」というと少量でもカロリーが高く、摂り過ぎると脂肪蓄積の原因となる印象がありますよね。私も診察の場面で、血糖や中性脂肪が高めの方には、「甘いもの、油ものを控えめにして、繊維物をしっかり摂りましょう」と話すことが度々です。実際には「油」には体に良い油と悪い油があり、積極的に摂るべき油もあることを知っておく必要があります。どんな健康本にも積極的に摂取すべき油として紹介されるのが、青魚に多く含まれるEPAやDHAです。今回は、『「海の油」と「陸の油」のお話し』というタイトルで、積極的に摂るべき油、控えるべき油を整理します。
「海の油」と「陸の油」
 「油」というと灯油やガソリンなどの燃料油も含まれてしまいますよね。実は生命に関わる油は「脂質」と呼ばれます。コレステロールが高い状態を、以前は高コレステロール血症と呼んでいましたが、今は脂質異常症と呼ぶようになっています。なぜかと言いますと、コレステロールには悪玉のLDLコレステロールと、善玉のHDLコレステロールの2種類があって、HDLコレステロールが低い状態は体にとって良くないのですが、高コレステロール血症ではこの病態を表現できないからです。
 さて、脂質を構成しているのは「脂肪酸」という物質で、脂質は脂肪酸の種類によって、いくつかに分類されています。基本的には常温で固まる油が「飽和脂肪酸」、常温で固まらない油が「不飽和脂肪酸」と呼ばれます。以前は、飽和脂肪酸が動脈硬化を進行させ、不飽和脂肪酸が動脈硬化を予防すると言われていましたが、現在ではこれは間違いであることがわかっています。実は、飽和脂肪酸の一種である「中鎖脂肪酸」が、今、認知症予防の救世主として注目されています。ココナッツオイルやココナッツミルクに含まれている中鎖脂肪酸については、次号で紹介します。一方のヘルシーと言われてきた「不飽和脂肪酸」ですが、大きく「オメガ3系脂肪酸」「オメガ6系脂肪酸」「オメガ9系脂肪酸」の3種類に分かれています。青魚に多く含まれるEPAやDHAは「オメガ3系脂肪酸」に属しこれらが「海の油」です。一方、豚肉や鶏肉、植物由来の油に多く含まれるアラキドン酸は「オメガ6系脂肪酸」に属しこれが「陸の油」になります。この一般の人に分かりやすい油の分類を提唱しているのが、百歳健康法でおなじみの白澤卓二先生です。
「海の油」と「陸の油」のバランスが決め手!
 日本人の魚の消費量は1970年代から増えています。健康長寿のために魚を食べた方がいいいことが分かり、多くの人が意識して魚を摂るようになったにも関わらず、脳卒中や心筋梗塞の発症率は一向に下がりません。なぜでしょうか?それをよく示している上のグラフをご覧ください。上の棒グラフを見ると、魚の脂質(海の油)の摂取量は、1970年代からわずかながらも増えています。一方で植物性脂質と動物性脂質(陸の油)の摂取量は1970年代から急速に増えています。下の折れ線グラフをご覧ください。総脂肪に対するEPAの推定比が1950年代からぐっと下がり、それに半比例する形で、脳梗塞や虚血性心疾患の死亡率が上昇しています。つまり、日本人は魚の油はそれなりに摂取しているのですが、それ以上に陸の油を過剰に摂取しているため、脳や心臓の血管をボロボロにさせてしまっているというわけです。
心筋梗塞.jpg血管の炎症を引き起こす「陸の油」
 サラダ油、コーン油、ベニバナ油、ナタネ油などの植物性の油ですが、その名前からか体には良いものというイメージを持っている方が多いかと思います。実は、これらの植物性の油はオメガ6系脂肪酸であるリノール酸やγリノレン酸を多く含んでおり、酸化するとアラキドン酸に変化するのです。アラキドン酸は、過剰に摂取すると血管の炎症を招き、血栓ができやすくなります。豚肉や鶏肉にもアラキドン酸が多いのですが、これら肉の油と植物性の油は成分としては同じ性質のものだという認識が必要です。植物性の油は炒め物や揚げ物に使われたり、加工食品に利用されています。肉をそれほど食べていなくても、炒め物、揚げ物や加工食植物油.jpg品を頻繁に食べていると、植物性の油、つまり陸の油を過剰に摂取することになり、体には害になってしまいます。炒め物や揚げ物には、陸の油であっても性質の違うオメガ9系脂肪酸に属するオリーブオイルや、次号で紹介するココナッツオイルを上手に利用するのがいいと思います。
牛肉、豚肉、鶏肉どれがいい?
 肉には牛肉、豚肉、鶏肉などがあります。さて、どの肉を多く摂取するのがいいのでしょうか?最近、サーロインステーキなどを好んで食べる人は長生きするから、魚より肉を食べた方がいいんだとマスコミや本で主張する人がいます。豚肉や鶏肉にはアラキドン酸が多いのですが、牛肉にはあまり含まれていません。その点では、牛肉を好んで食べる方に元気な方が多いのは、アラキドン酸の少ない良質な蛋白質を摂取しているからだろうと推察されます。かと言って、肉より魚の方が体にいいと考えるのは間違っています。
 豚肉にはビタミンB群が豊富ですし、鶏肉は牛肉に比べてコレステロールが少ないといういい面もそれぞれあります。牛肉、豚肉、鶏肉のどれが一番いいといっても、順番はつけられないかと思います。3つの肉をバランスよく摂るのがいいのでしょう。ただ調理する際に用いる油には前述したような注意が必要です。肉を食べる時にはできるだけ、しゃぶしゃぶにしたり、湯通しして、油を使わない調理をすることも大切でしょう。
「海の油」EPA・DHAを積極的に摂取しよう!
 EPAは血液をサラサラにして、血栓ができるのを防ぐ働きがあります。一方、DHAは脳の炎症を抑えたり、脳の働きを良くする働きがあります。また、EPA・DHAともに炎症を抑えたり、免疫力を高めたり、脂質代謝を改善する作用もあります。EPA・DHAは体内では合成されないため、食品からしか摂取できない、いわゆる必須脂肪酸です。日頃から、EPA・DHAを多く含んでいる食材、魚介類や海藻を積極的に食事に取り入れて下さい。特に、まぐろ、さんま、さば、いわし、あじ、かつお、ぶりなどに多く含まれています。魚の油の成分ですので、油の乗ったものの方がより豊富に含まれています。ただし、EPA・DHAは、熱に弱く酸化しやすいので、調理方法としては生で食べるお刺身が最適といえます。
サバ②.jpg お魚が苦手だったり、自宅で調理するのが面倒という方はどうしたらいいでしょうか?EPA・DHAを多く含む魚以外で、オメガ3系脂肪酸が豊富な食品があります。オメガ3系脂肪酸には、αリノレン酸という体内で消化・分解されてEPAやDHAになる脂肪酸があります。αリノレン酸を多く含む油には、エゴマ油、亜麻仁油、インカインチオイル(サチャインチという植物を原料とするオイル)、チアシード(南米原産の種子)などがあります。これらを加熱しないように上手に料理に取り入れて、オメガ3系脂肪酸を摂取すると良いでしょう。

アイス.jpgのサムネール画像 前号の新聞を発行してから、三人の女性の患者さんから次のような話がありました。「先生、困るわあ。私、パンやパスタやアイスクリーム大好きなのに。どうしたらいいの?」一人の方は「先がそんなに長くないし、私は大好きなパンを食べ続けるわよ」と仰っておりました。昔、食品関連の会社を立ち上げた高齢の男性の方からは、「あの記事を読んで、私はパンを食べるのを一切やめましたよ。家内は食べ続けていますが・・・」反響の大きさに驚いていますが、そのグルテンの話題で今回もお話しいたします。デイビット・パールマスター著『いつものパンがあたなを殺す』(三笠書房)、副題として「脳を一生、老化させない食事」とありますが、内容がやや難しく、かなり過激なので、内容をかみ砕いてソフトにして紹介させていただきます。
血糖を急激に上昇させる食品とは?
 前号では、現代人は炭水化物を過剰に摂り過ぎていて、それが糖尿病を始めとする生活習慣病を生んでしまっているというお話しをしました。ここで、著者が医療関係者に講演する際に、4種類の食べ物のスライドを見せてから質問するというお話を紹介します。その4種類の食べ物とは、①全粒小麦パン、②チョコバー、③精白糖大さじ一杯、④バナナです。質問は「もっとも血糖を急増させる食品は?」です。皆さん、どう思いますか?③の精白糖だと思う方パン②.jpgのサムネール画像が多いかと思います。医療関係者でも正解される方はほとんどいないそうです。
 ここでグリセミック・インデックス(GI値)を紹介します。GI値とは、ある食べ物を食べた後に、血糖値がどのくらい急激に上昇するのかを計測した数値です。GI値はゼロから100までの範囲で、血糖を急激に上昇させる食べ物ほど高い値になります。純粋なブドウ糖のGI値を100としています。さて、前述の4種類の食品で、一番GI値が高いのが①全粒小麦パン(GI=71)です。意外に思いますよね。その他、高い順に言いますと、③精白糖(GI=68)、④バナナ(GI=56)、②チョコバー(GI=55)となります。精白小麦で作ったパンのGI値も71で、全粒小麦なら体にいいと考えるのはやめるべきのようです。
 著者は、「現代人にグルテン過敏症が増える理由は、今日の加工保存食品に含まれる多量のグルテンにさらされているばかりではなく、糖質(炭水化物)、炎症を促進する食べ物(マーガリン、ショートニングなどのトランス脂肪酸の多い食品)、環境有害物質(空気や土壌や水に含まれる体に悪影響を与える微量な物質)を過剰に摂取している結果でもある。現代人の脳においては、特に最悪の状況を生み出している。つまるところ、炭水化物は、私たちの体に害をなす成分の源なのだ。」と述べています。
「脂肪を蓄積せよ」という遺伝子
 前号で紹介しましたように、古代人は食事のうち7割を脂肪から摂取していました。脂肪は人間の代謝にとって好適な燃料であり、人間の進化のすべてを支えてきました。だからこそ、私たちは過去二○○万年に渡って、高脂肪の食事をしてきました。その後、わずか一万年ほど前に農業が行われるようになって初めて、食料として炭水化物が豊富に供給されるようになったに過ぎません。私たちはいまだに高脂肪の食事で生き抜いてきた狩猟採集民族の遺伝子を持っています。いわゆる「倹約遺伝子」です。長期におよぶ食糧不足に備えて、食料が豊かな時に脂肪を蓄えるように、体内にそのメカニズムが組み込まれています。この倹約遺伝子のおかげで、人間は食料が十分ある時に太ることができ、食料不足に備えることができました。
 その後、食べ物が手に入れやすくなった時代においても、倹約遺伝子はなおも活発に働いています。この倹約遺伝子の指示を無視するように人間が進化するには、これから四万年から七万年かかるといわれています。倹約遺伝子は、やってこないであろう飢饉に備えさせ、現代人に肥満を蔓延させ、糖尿病の患者を多くしています。さらに、現代人は炭水化物を過剰に摂取していますので、脂肪蓄積に拍車をかけているといえるでしょう。
脳が静かに燃えていくという恐怖炎②.jpgのサムネール画像
 炎症といえば、蜂に刺されたところが痛むとか、風邪を引いて喉が痛いとか、膝や肘の関節が痛むとか、といったイメージがあります。こういった時に血液検査をすれば、炎症の程度を表すCRP値が上昇したり、白血球数が上昇したりといったことが起こっています。こういった炎症は体感できますし、客観的に数値として目に見えてきます。この本では「脳の炎症」という言葉が頻繁に出てきます。私もどういうことか最初イメージができませんでした。著者は、脳炎とか脳脊髄炎といった急性のものではなく、アルツハイマー病、パーキンソン病、てんかん、自閉症、うつ病といった慢性的な脳の病気に起こっている、静かに燃えている「炎症」として説明しています。脳には体の他の部分と違って、痛みを脳②.jpgのサムネール画像感じる受容体がありませんので、人間は脳の炎症を感じることができない、だからこそ恐怖なのだと述べています。そして、この脳の炎症に深く関わっているのが、炭水化物やその一つであるグルテンの過剰摂取なのだ、という事がこの本の一番の主張になっています。様々な研究データが示されていますが、紙面の都合上、ここでは割愛します。
炭水化物、グルテンを抑えた食事を考えよう!
 欧米では日本と違ってパンが主食ですので、グルテン過敏の方が多いことは予想されます。日本の食品ではグルテンの有無の表示はありませんが、米国では今や当たり前で、ごく普通の食料品店でも「グルテンフリー製品」の品ぞろえは豊富のようです。過去数年で、米国で販売されたグルテンフリー製品の総額は爆発的に上昇し、業界全体では2011年に約6300億円を達成し、なおも上昇を続けているそうです。このグルテンフリー食品への関心は、皆さんもご存じの世界ランキング1位のテニスプレイヤー、ジョコビッチ選手の話が火を付けました。彼は、2011年からグルテンフリーの食事を取り入れ、その後まもなく世界ナンバーワンに登りつめたのです。
 話が変わりますが、私が小学校時代、学校給食で出された主食はコッペパンでした。宮田中学校に上がってまもなく、新しい校舎に移転し、そこで給食は教室ではなく、全校生徒が一同に食堂に会して食事をするようになりました。その頃から、米食が取り入れられるようになったと記憶しています。この本の訳者、白澤卓二先生はあとがきで次のように述べています。「五十代の方は、学校給食で出されたコッペパンから始まって、パンを暴力的に浴びて育ち生きてきました。脳の働きをよくし、認知症を防ぐというこの二つの課題を同時にこなさなければならない五十代になっても、相変わらず炭水化物中心の食生活を続けていたら取り返しがつきません。」と。
 五十代の方に限りませんが、パン、麺類、パスタ、焼き菓子類、シリアルなどグルテンが豊富な炭水化物食品は控えめにしたらいかがでしょうか。朝食がいつもパン食の方なら、米食に変えるのもいいかもしれません。グルテン過敏でなければ、グルテンフリー食にする程のことはないと思いますが、脳を守るという意味で、食生活を一考する必要はあるかと思います。
 三大栄養素と言えば、炭水化物、タンパク質、脂肪ですが、炭水化物の多い食品と言って、皆さんが頭に浮かぶのはどんな食原始人.jpg品でしょうか。ご飯、パン、麺類などですよね。ここで、旧石器時代と現代で、食事の栄養源がどれだけ違っているのか?大きな違いは炭水化物摂取量の差です。石器時代では、炭水化物の摂取量は全体の5%、現代では60%に及んでいます。さて、旧石器時代になくて、現代にある病気と言えば何でしょうか?心臓疾患、糖尿病、認知症、うつ病、肥満などです。現代人は炭水化物を過剰に摂取することで様々な病気に悩まされている、特にグルテンの過剰摂取に注意が必要という本に出会いましたので、内容をかみ砕いて紹介します。ちょっと衝撃的なタイトルですが、『いつものパンがあなたを殺す』です。米国の神経科医デイビッド・パールマターが著し、訳者は日本で百歳健康法でおなじみの白澤卓二氏です。
過剰な炭水化物摂取が引き起こすこと
 炭水化物は「糖質」と呼ばれることもある通り、体内に消化吸収されると血中でブドウ糖に変わり、体や脳の活動に欠かせないガソリン(エネルギー源)になります。このブドウ糖の代謝を調整しているのが、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンです。インスリンは血中のブドウ糖を肝臓や筋肉に取り込むことで、血中のブドウ糖の値が高くならないように調整しています。現代人の食事は炭水化物にあふれていますので、血中のブドウ糖が高めになり、膵臓はインスリンをせっせと出し続けます。膵臓が疲れ果て、インスリンの分泌が低下し、血糖の上昇が抑えられなくなるの膵臓.jpgが糖尿病です。血液中の過剰な糖は、ガラス破片のように体の細胞を傷つけ、網膜症、腎症、神経障害などを引き起こします。さらに、糖尿病は免疫力を低下させ、感染症や癌を発症させやすくします。
 体の中の細胞から見ると、血中のインスリンが過剰な状態が続くと、細胞表面のインスリンが働く受容体の数が減少し、ブドウ糖があまり細胞内に取り込まれないように変わっていきます。これがインスリン抵抗性と言われる状態で、これも血糖を上昇させることになります。さらに、インスリン抵抗性の状態が、脳でのアミロイド沈着を促進し、アルツハイマー病の発症に関わることが分かってきています。最近、アルツハイマー病が第三の糖尿病と言われるようになった理由がここにあります。
 1994年に米国糖尿病学会が米国民に対して、カロリーの60~70%を炭水化物で摂取するように勧告しました。日本でも糖尿病食での炭水化物の占める割合は同様の指導をしています。ところが、この勧告以降約10年間で、米国での糖尿病患者は倍増したようです。また、2011年日本での60歳以上の男女千人の調査により、糖尿病患者ではそうでない人に比べて15年以内にアルツハイマー病を発症する可能性が二倍であることが分かりました。
 もう一つ炭水化物の過剰摂取がやっかいなことは、体重増加につながるということです。摂取した炭水化物がブドウ糖に変わると、膵臓からはインスリンが分泌され、ブドウ糖を肝臓や筋肉にグリコーゲンとして蓄積させることはすでにお話ししました。ところが、肝臓や筋肉にこれ以上のグリコーゲンが蓄積できなくなると、体脂肪に変わってしまうのです。現代人に古代人にはなかった肥満が多い理由がここにあります。著者は畜産農家の次のような例をあげて、炭水化物の過剰摂取に警笛を鳴らしています。「考えてもみよう。多くの畜産農家が家畜に脂肪やタンパク質ではなく、コーンや穀物のような炭水化物を与え、太らせて出荷しているのだ」と。
グルテンの恐怖
 「グルテン」という言葉はあまり聞きなれない方が多いかもしれません。グルテンはタンパク質の混合物で、粘着性のある物質として作用し、食べ物をふわりとさせます。水と小麦粉を混ぜて手でこねて丸め、そのかたまりを流水の下で洗い、デンプンとタンパク質を流してしまえばネバネバする物質が手に残り、グルテンを体感することができます。小麦などの穀物に含まれている他、ありふれた添加物としてアイスクリーム、ホットドッグ、ソーセージ、マヨネーズ、ケチャップ、チーズ、シロップ、ビールなど多くの食品に使われています。
 グルテ食パン.jpgンに対する過敏症として「セリアック病」という自己免疫疾患があります。グルテンに対する異常な免疫反応で発生した自己抗体が小腸の上皮を攻撃し、慢性の下痢、腹痛、腹部膨満、栄養失調などを来す病気です。日本ではまれな疾患とされていて、私もセリアック病の患者をみたことはありません。セリアック病では消化器症状の他に、記憶障害、認知機能低下、てんかん、人格変化などの神経症状が現れることがあります。この著者は神経科医で、様々な神経症状の患者を診察する中で、原因不明の神経疾患を抱える患者の中にグルテン過敏症の患者がいて、グルテンフリーの食事指導をすることで、劇的に症状が回復した例をいくつか紹介しています。グルテン過敏症が関連する疾患として、注意欠陥多動性障害(ADHD)、アルコール性依存症、筋委縮性側索硬化症、自閉症、うつ病、糖尿病、関節リウマチ、心臓疾患、過敏性腸症候群、アルツハイマー病、統合失調症、パーキンソン病、てんかんなどを挙げています。著者はグルテン過敏症でなくても、現代人の健康、特に脳にグルテンが悪影響を及ぼしていると述べています。
グルテン依存の問題
 グルテンは胃で分解され、血液脳関門を通過できるポリペプチド混合物になります。これが脳に入り込むと、脳のオピオイド受容体と結合し、感覚的な恍惚状態を生み出すことが分かっています。ドーナッツ、スコーン、クロワッサンなどを食べた後に、もし急に楽しい気分になったことがあるなら、それは思い込みではないと著者は述べています。食品メーカーが製品の中に、できる限りたくさんのグルテンを詰め込もうとするのは当然で、多くの人がグルテンたっぷりの食品にやみつきになっていて、「グルテンは我々現代人のタバコ」と警笛を鳴らしています。
 今回三回目になりますが、『脳内汚染』という本から、メディア媒体が脳に及ぼす悪影響について紹前頭葉.jpg介いたします。中編では、ゲームが麻薬に匹敵する依存性があること、ゲーム開始年齢が低いほど子供の健全な成長に悪影響を及ぼしやすいこと、メディア媒体が現代人の心を幼くし自我理想像をゆがめていること、などを紹介しました。この後編では、メディア媒体と無関係で暮らすことができない現代社会にあって、どのような関わりが望ましいのかという著者の提言も含めて、お話しいたします。
ゲームやネットが前頭葉の機能を低下させる!
 人間が人間である一番のゆえんは、前頭葉、中でも最も前側に位置する前頭前野の発達です。前頭前野は人間の脳の約三分の一を占めており、サルから人間への脳の進化は、脳全体が大きくなったのではなく、前頭前野が前側にせり出す形で発達したことと考えられています。前頭前野の成熟は、他の脳の領域と比べて非常に時間を必要とし、大人になるまで発達し続けます。前頭前野は、対象を選択し、注意を維持し、目的をもった行動を行っていくとともに、様々な情報や情動を統合し、決断を下し、危険を回避し、行動をコントロールしていく、まさに「理性の座」というべき機能を担っています。
 寝屋川調査では、ゲームやネットを長時間やる子供たちにおいて、そうでない子供たちよりも、統計的に有意に高い割合で認められた前頭葉の機能低下に関係する項目十二が示されています。①「あまり考えずに行動したり、危険なことをしてしまう」慎重さの欠如。②「イライラしやすく、かっとなると暴言や暴力になってしまう」爆発性。③「じっと座っていることができず、たえず動きたがる」多動、抑制欠如。④「怒ったり、泣いたり、感情の波が激しい」気分易変性。⑤「反省するのは苦手である」自己反省力の低下。⑥「飽きっぽく計画的に物事ができない」無計画、持続的努力の困難。⑦「気が散りやすく、よそ見、忘れ物、ミスが多い」注意散漫。⑧「自分の興味のあることにゲーム時間と前頭葉機能.jpgは集中する」関心の限局性、固執性。⑨「人付き合いや集団は苦手である」非社交性、孤立傾向。⑩「一方的に喋ったり、場違いな発言や行動をしてしまう」共感性、状況判断力の低下。⑪「自分には特別なところがあると思う」自己中心性、責任転嫁。⑫「何事にも気力がなく、興味ややる気がわかない」無気力・無関心。
 これら項目に関する質問をスコア化し、平均得点を求めて「前頭葉機能スコア」とし、ゲームなどのメディア利用時間との関係をグラフにしたものを示します。図19が生徒本人による回答をもとに十項目より算出したものです。グラフを見ると、ゲームプレイ時間が長くなるにつれて低下が目立ち始め、三時間、四時間以上の子供では、顕著な前頭葉機能の低下がみられることが分かります。
ADHD、アスペルガー障害、学級崩壊の問題
 少し専門的な話になりますが、現代における子供たちの心の発達の問題にも触れておく必要があります。ADHDとは「注意欠陥/多動性障害」の略称ですが、今やADHDの子供が児童外来にあふれているようです。このタイプの子供たちは、授業中に周囲の状況と無関係に発言したり、立ち歩いたり、時には教室からいなくなったりします。クラスにADHDの子供が二、三人いると、授業が成り立たなくなる学級崩壊が起こりやすくなります。当初、ADHDは高い遺伝性のあることから、脳の構造的、生物学的要因に原因があると考えられてきました。ところが、この三十年程前よりADHDの子供が急速に増えたことから、遺伝性の問題だけではなく、環境的な要因が非常に大きく作用していると考えられるようになりました。
 ワシントン大学の小児科医のチームは、一歳と三歳の時にどれくらいテレビを観たかを調べ、その子供たちが七歳になった時点で、注意力の評価を行いました。その結果、一歳、三歳の時点でテレビによく接していた子供たちは、注意力に多くの問題があることが分かりました。テレビは絶え間なく場面が変わる性質を持つため、子供たちは魅入られたように画面を見つめます。ところが、そのために短いタイムスパンで注意を集中することに慣れ、長い時間の注意の集中が困難になります。テレビは便利なお守り役であるため、お母さんは家事の合間についつい子供にテレビを見せてしまいがちです。しかしながら、もともとADHDの素因を持った子供ではその症状を助長することになるため、注意が必要です。
 広汎性発達障害は、①対人関係における消極性、②相互的なコミュニケーションの障害、③興味や関心の限局性やこだわりの強さを特徴とする心の発達障害です。広汎性発達障害の中で、知能が正常範囲で、言葉の発達にも障害がみられないものを「アスペルガー障害」と呼び、男性では数%の罹患率で、現代では比較的よく見られる病気になっています。対人関係や集団生活が円滑にいかず、周囲の理解がないと孤立したり、いじめのターゲットにされることもあります。その一方で、集中力や狭く深い興味を活かして、研究者や技術者として成功することもあり、実際に、学者や研究者には、アスペルガー障害やその傾向を持った人が多いといわれています。
 ADHD、アスペルガー障害などの脳の発達障害がこれほど身近になったのはなぜでしょうか?著者は現代の若者が、前頭前野などの脳の発達にとってマイナスになるゲームなどのメディア媒体に、より早い時期からさらされているためと述べています。
メディア漬けから子供たちを守るには?
 つい先日テレビで、日本人のギャンブル依存症罹患率が世界一と紹介されていました。日本独特のパチンコが主要な原因と思いますが、何とも恥ずかしいデータです。また、2020年東京オリンピック開催に併せて、法律を改定してカジノを日本に作ろうという報道もされていました。経済効果は高いかもしれませんが、カジノを誘致すればギャンブル依存症の日本人を増やすだけですし、子供たちにも悪影響であることは目に見えています。良識のない日本人が増えていることを憂慮さぜるを得ませんが、そう言ってばかりもいられません。著者は、競馬やパチンコに適用されているルールが最低限必要だと主張しています。つまり、未成年者や学生に、高い嗜癖(しへき)性や有害な内容を含むゲーム、ビデオ、ネットサイトなどの利用を禁じる法制度の確立をすべきと訴えています。メディアを提供する企業としては、収益を優先させるあまり、このような法律の成立には抵抗があると予想されますが、現実に起きている子供たちへの被害や影響の大きさを考えると、その様な法律は必要ではないでしょうか。
 この『脳内汚染』の著者は、少年院に勤務する精神科医です。そのような背景もあって、心に問題のある子供達を施設静寂.jpgや病院で診る機会があり、大変興味深いことを述べています。たとえば、施設に来た子供たちが元気になり、社会性を回復していく上で、様々な働きかけとともに、ゲームなどが「できない」環境が重要な役割をしていると述べています。社会にいる時は毎日数時間をメディアに浸っていた子供たちは、代わりに現実の人間の中でもまれながら過ごすことになります。その体験は、一人でゲームをしながら部屋にこもっているよりも、不快でわずらわしいことに思えますが、そうした日々の中で、彼らは人と交わることの楽しさや喜びに目覚めるそうです。病院に入院した若者たちも、ゲームやネットが思うようにできない、好きな番組が「見られない」環境で、最初はイライラしたり、人となじもうともしませんが、そのうちに憑きものが取れたように表情が柔らかくなり、人との交流を楽しむようになるそうです。施設や病院の話は決して特殊な例ではなく、すべての燃え尽きた心の回復に当てはまると著者は言います。宗教的な場所であれ、修練のための場所であれ、そこには過剰な刺激と情報から守られた『静寂』があり、それによって程よく不足した状態が生まれ、そこから再び生きようとする力が蘇るのだという著者の言葉には説得力を感じます。
 一般の家庭ならテレビを付けっ放しにせず、見たい番組が終わったらさっさとスイッチを消す(これは私の親からされていました)、せめて出かけたり旅行に行った時は、ゲームやテレビはなしという取り決めをする、などは実行可能なことではないでしょうか。最後に印象的な著者の言葉を引用して、このシリーズを終わりにしたいと思います。
 『絶えず情報に脳をさらし続けることをやめ、刺激のない状態の静けさや、安らかさを、心と脳に取り戻してやることが大切なのだ。新たな刺激を際限なく求め続けることは、長期的に見れば、心をどんどん鈍麻させ、幸せを感じにくい心を作り出してしまう。ささやかな楽しみが楽しみとして感じられることこそが、幸せの本質なのである。』
 今回も『脳内汚染』という本から、メディア媒体が脳に及ぼす悪影響について紹介いたします。前編ではテレビの普及によって世界的に犯罪が増加したこと、ゲームやビデオが子供達に暴力を学習させ暴力に対する感覚低下を招いているということ、子供達に善か悪かという二分法的思考や悲観的な思考を植え付けているということなどをお話しいたしました。今回も、この本で大切な部分をかいつまんでお話しいたします。
子供部屋に侵入した麻薬
 ゲームの恐ろしいのは、麻薬にも匹敵した嗜癖(しへき)性であると著者は述べています。1998年権威ある科学雑誌『ネイチャー』に掲載された論文が紹介されています。ビデオゲームをプレイした時の脳内のドーパミンの放出量を調べたところ、コカインや覚醒剤が投与された時のドーパミン増加量に匹敵することが分かりました。ドーパミンとは気持ちいいと喫煙イメージ.jpg感じる脳内モルヒネの一つで、喫煙におけるニコチンの作用で脳内に多量に放出される物質です。麻薬患者が麻薬から離脱できない、喫煙者がなかなかタバコを止められないのと同様の嗜癖性が、ゲームにはあるのです。私にも経験があります。中学3年生の時に趣味であった天体観測のためにパソコンを買ってもらいました。このパソコンで、当時ローリングプレイゲームの走りであった『ザナドウ』というゲームにはまり、夜更かしをしてゲームに興じていたことを覚えています。受験生でもあったのでこれはいけないと思い、必死の思いでゲームを封印しましたが、この時の辛さは私が30歳頃に果たした禁煙と同じ感覚だったように記憶しています。
 ゲーム依存が大きな拡大を遂げた理由の一つとして、保護者の側に、テレビやビデオの長時間見過ぎることへの警戒心はあっても、ゲームに対しては比較的警戒心がなかったことを挙げています。確かに今でも、子供達へのクリスマスや誕生日プレゼントの重要な候補は、ゲーム機器やゲームソフトですね。ゲームが二十年前と同じ技術水準で、ほどよく飽きてしまうものであればいいのですが、コンピュータ技術の急速な発展により、今やゲームは極めて高いリアリティと刺激に満ちた仮想世界を現実のものとしています。ずっと飽きが来ないほどにワクワク興奮する時に脳内で起きていることは、麻薬的な薬物を使用している時や、ギャンブルに熱中している時と基本的に同じことなのです。子供達にコカインや覚醒剤をプレゼントする親はいません。ところが実際には、麻薬的な作用を持つ「映像ドラッグ」を子供達にプレゼントしているのかもしれないと、この著者は警笛を鳴らしています。
ゲーム開始年齢が低いほど危険!
 寝屋川調査では、小学校に上がるまでにゲームを始めた子の割合が二四%、小学校一、二年に始めた子の割合が四五%で、小学校低学年までに全体の七割近い子がゲームをするとの結果が出ています。ゲームを早く始めた子では、中学になっても長時間ゲームをする傾向がみられ、また、ヘビーな依存症状がみられるケースでは小学校に上がる前にゲームを始めた子が多いとの結果も出ています。さらに懸念されることは、ゲームを早くから始めた子では、現時点でのゲテレビゲーム②.jpgーム時間に関係なく、様々な問題点がより強くみられると指摘しています。「あまり考えずに、危険なことをしてしまうことがある」、「何事にも気力がなく、興味ややる気がわかない」、「人の気持ちが分かりにくく、ずれてしまう」、「注意が散りやすく、よそ見や忘れ物、ミスが多い」、「友達とケンカしたり、絶交したりが激しい」などです。また、ゲームを小学校に上がる前に始めた子では、現在ゲームをあまりしない子でも、勉強時間が短く、休憩時間以外に友達と遊ぶ時間も短い傾向がみられています。
 就学前という人生早期の、脳の最も重要な形成段階で、ゲームや刺激の強いメディアに容易に触れることは、後に思ってもみない災いを引き起こしかねないのです。保護者は、お子さんの大切な人生が、その準備段階で損なわれることのないように注意すべきといえます。
損なわれる心の発達と幼くなる現代人
 ゲームが子供たちの社会的成長に及ぼす影響について、著者は二つのことを述べています。一つは、ゲームで遊ぶこと自体が、子供の心や脳の発達に及ぼす悪い影響です。もう一つは、ゲームで遊ぶ時間が増えることにより、子供が友達と交流する遊びの中で、社会的なスキルを高め、共感性や他者に対する配慮や常識を身につける機会が奪われているという影響です。
 最近の中学生、高校生、さらには社会に出る年齢の若者においてさえ顕著にみられる傾向は、「幼くなっている」ことだと述べています。突発的な事件を起こした子供すべてにおいても当てはまるといいます。彼らの心は十代後半にあっても、ある部分において、六~八歳の子供たちの特徴的は傾向を示しています。その特徴は次の五つです。①現実と空想の区別が十分でなく、結果の予測能力が乏しい。②相手の立場、気持ちを考え、思いやる共感能力が未発達である。③自分を客観的に振り返る自己反省が働きにくい。④正義と悪という単純な二分法にとらわれやすく、悪は滅ぼすべしという復讐や報復を正当化し、その方向に突っ張りやすい。⑤善悪の観念は、心の中に確固と確立されたものではなく、周囲の雰囲気やその場の状況に左右される。小学校低学年レベルから高学年レベルへの心の成長がうまく起こらないまま、それが中学になっても、高校になっても、青年になっても続いている、つまり現代においては、人々の心がどんどん幼くなっているという相当深刻な状態があります。そこには、現実の存在よりも、メディアが提供する、単純化された仮想の存在に親しみすぎた世代の弱点が露呈していると著者は述べています。
メディアによって自我理想像がゆがめられている
 有史以前より人間にとって四歳からの成長として大切なのは、母親の膝元を徐々に離れ、同年代の子供達と遊び、父親や年長者に連れられて、新しい体験の場へと出向くことです。特に、父親との関係が重要と考えられています。ところが現代の子供達では、この時期になると、メディアとの接触が急速に存在感を増していきます。子供が自ら進んで求める場合もあれば、親や大人の方から与える場合もあります。親や大人達は、自分で子供の相手をする代わりに、メディアに読書親子.jpg子供の相手をしてもらおうとします。本を読んだり話を聞かせるよりも、ビデオを見せた方が手っ取り早いし、子供も喜ぶ。外で体を使って遊ぶ相手をするよりも、ゲームをさせておいた方が、親も休日をのんびり過ごせるし、子供も機嫌がいい・・・私の小さい頃(四十年以上前ですが)を思い出してみると、ビデオやゲームはありませんでしたから、暗くなるまで友達と外で遊びまわっていたし、家では何かしら弟と遊びを探して過ごしていました。冬の寒い時期は、休日には必ず両親にスキーに連れて行ってもらいました。ところが、私の子供達(高校生、大学生ですが)の小さい頃は、どうだったでしょうか。前述にあったようにメディアに子供達の相手をしてもらうことが多かった・・・今になって反省します。
 著者はこうした現代の当たり前の習慣が、かなり恐ろしいことを起こしていると憂慮しています。つまり、人生を決定づけるといっても過言でない自我理想像を形成する段階において、子供たちは父親や母親、学校の先生、歴史上の偉人ではなく、メディアの中の存在を理想像として心に刷り込んでしまうのです。超人的な戦闘能力で敵をなぎ倒すヒーローであったり、魔法の力で何でも思い通りにしてしまう便利な存在だったりをです。なぜ、現代の子供達が父親や母親に対して、尊敬や親しみさえ抱かず、まるで異物に対するような目を向けて平然としているのか、冷酷に暴力をふるうことさえ平気でしてしまえるのか、根本的な原因がここにあると著者は指摘します。マンガやアニメの主人公、映画やドラマの俳優のようなパーフェクトな存在に理想を求め過ぎれば、現実の存在はあまりに不完全な存在です。メディアによって自我理想像がゆがめられると、現実の存在に対しては、相手の不完全な部分にばかり注意を向け、否定的でシニカルな見方をしてしまうのです。
 メディアが発達したことで、私達の生活は大変便利になりました。しかし、その反面で、人間の心を豊かにするという大切な面が著しく脅かされていると感じます。紙面の都合上、『脳内汚染』で語られていることを、次回もお伝えしたいと思います。 
医療法人すずらん まえやま内科胃腸科クリニック ご予約・お問い合わせ 0265-82-8614