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油の摂り方変遷.jpg「油」というと少量でもカロリーが高く、摂り過ぎると脂肪蓄積の原因となる印象がありますよね。私も診察の場面で、血糖や中性脂肪が高めの方には、「甘いもの、油ものを控えめにして、繊維物をしっかり摂りましょう」と話すことが度々です。実際には「油」には体に良い油と悪い油があり、積極的に摂るべき油もあることを知っておく必要があります。どんな健康本にも積極的に摂取すべき油として紹介されるのが、青魚に多く含まれるEPAやDHAです。今回は、『「海の油」と「陸の油」のお話し』というタイトルで、積極的に摂るべき油、控えるべき油を整理します。
「海の油」と「陸の油」
 「油」というと灯油やガソリンなどの燃料油も含まれてしまいますよね。実は生命に関わる油は「脂質」と呼ばれます。コレステロールが高い状態を、以前は高コレステロール血症と呼んでいましたが、今は脂質異常症と呼ぶようになっています。なぜかと言いますと、コレステロールには悪玉のLDLコレステロールと、善玉のHDLコレステロールの2種類があって、HDLコレステロールが低い状態は体にとって良くないのですが、高コレステロール血症ではこの病態を表現できないからです。
 さて、脂質を構成しているのは「脂肪酸」という物質で、脂質は脂肪酸の種類によって、いくつかに分類されています。基本的には常温で固まる油が「飽和脂肪酸」、常温で固まらない油が「不飽和脂肪酸」と呼ばれます。以前は、飽和脂肪酸が動脈硬化を進行させ、不飽和脂肪酸が動脈硬化を予防すると言われていましたが、現在ではこれは間違いであることがわかっています。実は、飽和脂肪酸の一種である「中鎖脂肪酸」が、今、認知症予防の救世主として注目されています。ココナッツオイルやココナッツミルクに含まれている中鎖脂肪酸については、次号で紹介します。一方のヘルシーと言われてきた「不飽和脂肪酸」ですが、大きく「オメガ3系脂肪酸」「オメガ6系脂肪酸」「オメガ9系脂肪酸」の3種類に分かれています。青魚に多く含まれるEPAやDHAは「オメガ3系脂肪酸」に属しこれらが「海の油」です。一方、豚肉や鶏肉、植物由来の油に多く含まれるアラキドン酸は「オメガ6系脂肪酸」に属しこれが「陸の油」になります。この一般の人に分かりやすい油の分類を提唱しているのが、百歳健康法でおなじみの白澤卓二先生です。
「海の油」と「陸の油」のバランスが決め手!
 日本人の魚の消費量は1970年代から増えています。健康長寿のために魚を食べた方がいいいことが分かり、多くの人が意識して魚を摂るようになったにも関わらず、脳卒中や心筋梗塞の発症率は一向に下がりません。なぜでしょうか?それをよく示している上のグラフをご覧ください。上の棒グラフを見ると、魚の脂質(海の油)の摂取量は、1970年代からわずかながらも増えています。一方で植物性脂質と動物性脂質(陸の油)の摂取量は1970年代から急速に増えています。下の折れ線グラフをご覧ください。総脂肪に対するEPAの推定比が1950年代からぐっと下がり、それに半比例する形で、脳梗塞や虚血性心疾患の死亡率が上昇しています。つまり、日本人は魚の油はそれなりに摂取しているのですが、それ以上に陸の油を過剰に摂取しているため、脳や心臓の血管をボロボロにさせてしまっているというわけです。
心筋梗塞.jpg血管の炎症を引き起こす「陸の油」
 サラダ油、コーン油、ベニバナ油、ナタネ油などの植物性の油ですが、その名前からか体には良いものというイメージを持っている方が多いかと思います。実は、これらの植物性の油はオメガ6系脂肪酸であるリノール酸やγリノレン酸を多く含んでおり、酸化するとアラキドン酸に変化するのです。アラキドン酸は、過剰に摂取すると血管の炎症を招き、血栓ができやすくなります。豚肉や鶏肉にもアラキドン酸が多いのですが、これら肉の油と植物性の油は成分としては同じ性質のものだという認識が必要です。植物性の油は炒め物や揚げ物に使われたり、加工食品に利用されています。肉をそれほど食べていなくても、炒め物、揚げ物や加工食植物油.jpg品を頻繁に食べていると、植物性の油、つまり陸の油を過剰に摂取することになり、体には害になってしまいます。炒め物や揚げ物には、陸の油であっても性質の違うオメガ9系脂肪酸に属するオリーブオイルや、次号で紹介するココナッツオイルを上手に利用するのがいいと思います。
牛肉、豚肉、鶏肉どれがいい?
 肉には牛肉、豚肉、鶏肉などがあります。さて、どの肉を多く摂取するのがいいのでしょうか?最近、サーロインステーキなどを好んで食べる人は長生きするから、魚より肉を食べた方がいいんだとマスコミや本で主張する人がいます。豚肉や鶏肉にはアラキドン酸が多いのですが、牛肉にはあまり含まれていません。その点では、牛肉を好んで食べる方に元気な方が多いのは、アラキドン酸の少ない良質な蛋白質を摂取しているからだろうと推察されます。かと言って、肉より魚の方が体にいいと考えるのは間違っています。
 豚肉にはビタミンB群が豊富ですし、鶏肉は牛肉に比べてコレステロールが少ないといういい面もそれぞれあります。牛肉、豚肉、鶏肉のどれが一番いいといっても、順番はつけられないかと思います。3つの肉をバランスよく摂るのがいいのでしょう。ただ調理する際に用いる油には前述したような注意が必要です。肉を食べる時にはできるだけ、しゃぶしゃぶにしたり、湯通しして、油を使わない調理をすることも大切でしょう。
「海の油」EPA・DHAを積極的に摂取しよう!
 EPAは血液をサラサラにして、血栓ができるのを防ぐ働きがあります。一方、DHAは脳の炎症を抑えたり、脳の働きを良くする働きがあります。また、EPA・DHAともに炎症を抑えたり、免疫力を高めたり、脂質代謝を改善する作用もあります。EPA・DHAは体内では合成されないため、食品からしか摂取できない、いわゆる必須脂肪酸です。日頃から、EPA・DHAを多く含んでいる食材、魚介類や海藻を積極的に食事に取り入れて下さい。特に、まぐろ、さんま、さば、いわし、あじ、かつお、ぶりなどに多く含まれています。魚の油の成分ですので、油の乗ったものの方がより豊富に含まれています。ただし、EPA・DHAは、熱に弱く酸化しやすいので、調理方法としては生で食べるお刺身が最適といえます。
サバ②.jpg お魚が苦手だったり、自宅で調理するのが面倒という方はどうしたらいいでしょうか?EPA・DHAを多く含む魚以外で、オメガ3系脂肪酸が豊富な食品があります。オメガ3系脂肪酸には、αリノレン酸という体内で消化・分解されてEPAやDHAになる脂肪酸があります。αリノレン酸を多く含む油には、エゴマ油、亜麻仁油、インカインチオイル(サチャインチという植物を原料とするオイル)、チアシード(南米原産の種子)などがあります。これらを加熱しないように上手に料理に取り入れて、オメガ3系脂肪酸を摂取すると良いでしょう。

アイス.jpgのサムネール画像 前号の新聞を発行してから、三人の女性の患者さんから次のような話がありました。「先生、困るわあ。私、パンやパスタやアイスクリーム大好きなのに。どうしたらいいの?」一人の方は「先がそんなに長くないし、私は大好きなパンを食べ続けるわよ」と仰っておりました。昔、食品関連の会社を立ち上げた高齢の男性の方からは、「あの記事を読んで、私はパンを食べるのを一切やめましたよ。家内は食べ続けていますが・・・」反響の大きさに驚いていますが、そのグルテンの話題で今回もお話しいたします。デイビット・パールマスター著『いつものパンがあたなを殺す』(三笠書房)、副題として「脳を一生、老化させない食事」とありますが、内容がやや難しく、かなり過激なので、内容をかみ砕いてソフトにして紹介させていただきます。
血糖を急激に上昇させる食品とは?
 前号では、現代人は炭水化物を過剰に摂り過ぎていて、それが糖尿病を始めとする生活習慣病を生んでしまっているというお話しをしました。ここで、著者が医療関係者に講演する際に、4種類の食べ物のスライドを見せてから質問するというお話を紹介します。その4種類の食べ物とは、①全粒小麦パン、②チョコバー、③精白糖大さじ一杯、④バナナです。質問は「もっとも血糖を急増させる食品は?」です。皆さん、どう思いますか?③の精白糖だと思う方パン②.jpgのサムネール画像が多いかと思います。医療関係者でも正解される方はほとんどいないそうです。
 ここでグリセミック・インデックス(GI値)を紹介します。GI値とは、ある食べ物を食べた後に、血糖値がどのくらい急激に上昇するのかを計測した数値です。GI値はゼロから100までの範囲で、血糖を急激に上昇させる食べ物ほど高い値になります。純粋なブドウ糖のGI値を100としています。さて、前述の4種類の食品で、一番GI値が高いのが①全粒小麦パン(GI=71)です。意外に思いますよね。その他、高い順に言いますと、③精白糖(GI=68)、④バナナ(GI=56)、②チョコバー(GI=55)となります。精白小麦で作ったパンのGI値も71で、全粒小麦なら体にいいと考えるのはやめるべきのようです。
 著者は、「現代人にグルテン過敏症が増える理由は、今日の加工保存食品に含まれる多量のグルテンにさらされているばかりではなく、糖質(炭水化物)、炎症を促進する食べ物(マーガリン、ショートニングなどのトランス脂肪酸の多い食品)、環境有害物質(空気や土壌や水に含まれる体に悪影響を与える微量な物質)を過剰に摂取している結果でもある。現代人の脳においては、特に最悪の状況を生み出している。つまるところ、炭水化物は、私たちの体に害をなす成分の源なのだ。」と述べています。
「脂肪を蓄積せよ」という遺伝子
 前号で紹介しましたように、古代人は食事のうち7割を脂肪から摂取していました。脂肪は人間の代謝にとって好適な燃料であり、人間の進化のすべてを支えてきました。だからこそ、私たちは過去二○○万年に渡って、高脂肪の食事をしてきました。その後、わずか一万年ほど前に農業が行われるようになって初めて、食料として炭水化物が豊富に供給されるようになったに過ぎません。私たちはいまだに高脂肪の食事で生き抜いてきた狩猟採集民族の遺伝子を持っています。いわゆる「倹約遺伝子」です。長期におよぶ食糧不足に備えて、食料が豊かな時に脂肪を蓄えるように、体内にそのメカニズムが組み込まれています。この倹約遺伝子のおかげで、人間は食料が十分ある時に太ることができ、食料不足に備えることができました。
 その後、食べ物が手に入れやすくなった時代においても、倹約遺伝子はなおも活発に働いています。この倹約遺伝子の指示を無視するように人間が進化するには、これから四万年から七万年かかるといわれています。倹約遺伝子は、やってこないであろう飢饉に備えさせ、現代人に肥満を蔓延させ、糖尿病の患者を多くしています。さらに、現代人は炭水化物を過剰に摂取していますので、脂肪蓄積に拍車をかけているといえるでしょう。
脳が静かに燃えていくという恐怖炎②.jpgのサムネール画像
 炎症といえば、蜂に刺されたところが痛むとか、風邪を引いて喉が痛いとか、膝や肘の関節が痛むとか、といったイメージがあります。こういった時に血液検査をすれば、炎症の程度を表すCRP値が上昇したり、白血球数が上昇したりといったことが起こっています。こういった炎症は体感できますし、客観的に数値として目に見えてきます。この本では「脳の炎症」という言葉が頻繁に出てきます。私もどういうことか最初イメージができませんでした。著者は、脳炎とか脳脊髄炎といった急性のものではなく、アルツハイマー病、パーキンソン病、てんかん、自閉症、うつ病といった慢性的な脳の病気に起こっている、静かに燃えている「炎症」として説明しています。脳には体の他の部分と違って、痛みを脳②.jpgのサムネール画像感じる受容体がありませんので、人間は脳の炎症を感じることができない、だからこそ恐怖なのだと述べています。そして、この脳の炎症に深く関わっているのが、炭水化物やその一つであるグルテンの過剰摂取なのだ、という事がこの本の一番の主張になっています。様々な研究データが示されていますが、紙面の都合上、ここでは割愛します。
炭水化物、グルテンを抑えた食事を考えよう!
 欧米では日本と違ってパンが主食ですので、グルテン過敏の方が多いことは予想されます。日本の食品ではグルテンの有無の表示はありませんが、米国では今や当たり前で、ごく普通の食料品店でも「グルテンフリー製品」の品ぞろえは豊富のようです。過去数年で、米国で販売されたグルテンフリー製品の総額は爆発的に上昇し、業界全体では2011年に約6300億円を達成し、なおも上昇を続けているそうです。このグルテンフリー食品への関心は、皆さんもご存じの世界ランキング1位のテニスプレイヤー、ジョコビッチ選手の話が火を付けました。彼は、2011年からグルテンフリーの食事を取り入れ、その後まもなく世界ナンバーワンに登りつめたのです。
 話が変わりますが、私が小学校時代、学校給食で出された主食はコッペパンでした。宮田中学校に上がってまもなく、新しい校舎に移転し、そこで給食は教室ではなく、全校生徒が一同に食堂に会して食事をするようになりました。その頃から、米食が取り入れられるようになったと記憶しています。この本の訳者、白澤卓二先生はあとがきで次のように述べています。「五十代の方は、学校給食で出されたコッペパンから始まって、パンを暴力的に浴びて育ち生きてきました。脳の働きをよくし、認知症を防ぐというこの二つの課題を同時にこなさなければならない五十代になっても、相変わらず炭水化物中心の食生活を続けていたら取り返しがつきません。」と。
 五十代の方に限りませんが、パン、麺類、パスタ、焼き菓子類、シリアルなどグルテンが豊富な炭水化物食品は控えめにしたらいかがでしょうか。朝食がいつもパン食の方なら、米食に変えるのもいいかもしれません。グルテン過敏でなければ、グルテンフリー食にする程のことはないと思いますが、脳を守るという意味で、食生活を一考する必要はあるかと思います。
 三大栄養素と言えば、炭水化物、タンパク質、脂肪ですが、炭水化物の多い食品と言って、皆さんが頭に浮かぶのはどんな食原始人.jpg品でしょうか。ご飯、パン、麺類などですよね。ここで、旧石器時代と現代で、食事の栄養源がどれだけ違っているのか?大きな違いは炭水化物摂取量の差です。石器時代では、炭水化物の摂取量は全体の5%、現代では60%に及んでいます。さて、旧石器時代になくて、現代にある病気と言えば何でしょうか?心臓疾患、糖尿病、認知症、うつ病、肥満などです。現代人は炭水化物を過剰に摂取することで様々な病気に悩まされている、特にグルテンの過剰摂取に注意が必要という本に出会いましたので、内容をかみ砕いて紹介します。ちょっと衝撃的なタイトルですが、『いつものパンがあなたを殺す』です。米国の神経科医デイビッド・パールマターが著し、訳者は日本で百歳健康法でおなじみの白澤卓二氏です。
過剰な炭水化物摂取が引き起こすこと
 炭水化物は「糖質」と呼ばれることもある通り、体内に消化吸収されると血中でブドウ糖に変わり、体や脳の活動に欠かせないガソリン(エネルギー源)になります。このブドウ糖の代謝を調整しているのが、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンです。インスリンは血中のブドウ糖を肝臓や筋肉に取り込むことで、血中のブドウ糖の値が高くならないように調整しています。現代人の食事は炭水化物にあふれていますので、血中のブドウ糖が高めになり、膵臓はインスリンをせっせと出し続けます。膵臓が疲れ果て、インスリンの分泌が低下し、血糖の上昇が抑えられなくなるの膵臓.jpgが糖尿病です。血液中の過剰な糖は、ガラス破片のように体の細胞を傷つけ、網膜症、腎症、神経障害などを引き起こします。さらに、糖尿病は免疫力を低下させ、感染症や癌を発症させやすくします。
 体の中の細胞から見ると、血中のインスリンが過剰な状態が続くと、細胞表面のインスリンが働く受容体の数が減少し、ブドウ糖があまり細胞内に取り込まれないように変わっていきます。これがインスリン抵抗性と言われる状態で、これも血糖を上昇させることになります。さらに、インスリン抵抗性の状態が、脳でのアミロイド沈着を促進し、アルツハイマー病の発症に関わることが分かってきています。最近、アルツハイマー病が第三の糖尿病と言われるようになった理由がここにあります。
 1994年に米国糖尿病学会が米国民に対して、カロリーの60~70%を炭水化物で摂取するように勧告しました。日本でも糖尿病食での炭水化物の占める割合は同様の指導をしています。ところが、この勧告以降約10年間で、米国での糖尿病患者は倍増したようです。また、2011年日本での60歳以上の男女千人の調査により、糖尿病患者ではそうでない人に比べて15年以内にアルツハイマー病を発症する可能性が二倍であることが分かりました。
 もう一つ炭水化物の過剰摂取がやっかいなことは、体重増加につながるということです。摂取した炭水化物がブドウ糖に変わると、膵臓からはインスリンが分泌され、ブドウ糖を肝臓や筋肉にグリコーゲンとして蓄積させることはすでにお話ししました。ところが、肝臓や筋肉にこれ以上のグリコーゲンが蓄積できなくなると、体脂肪に変わってしまうのです。現代人に古代人にはなかった肥満が多い理由がここにあります。著者は畜産農家の次のような例をあげて、炭水化物の過剰摂取に警笛を鳴らしています。「考えてもみよう。多くの畜産農家が家畜に脂肪やタンパク質ではなく、コーンや穀物のような炭水化物を与え、太らせて出荷しているのだ」と。
グルテンの恐怖
 「グルテン」という言葉はあまり聞きなれない方が多いかもしれません。グルテンはタンパク質の混合物で、粘着性のある物質として作用し、食べ物をふわりとさせます。水と小麦粉を混ぜて手でこねて丸め、そのかたまりを流水の下で洗い、デンプンとタンパク質を流してしまえばネバネバする物質が手に残り、グルテンを体感することができます。小麦などの穀物に含まれている他、ありふれた添加物としてアイスクリーム、ホットドッグ、ソーセージ、マヨネーズ、ケチャップ、チーズ、シロップ、ビールなど多くの食品に使われています。
 グルテ食パン.jpgンに対する過敏症として「セリアック病」という自己免疫疾患があります。グルテンに対する異常な免疫反応で発生した自己抗体が小腸の上皮を攻撃し、慢性の下痢、腹痛、腹部膨満、栄養失調などを来す病気です。日本ではまれな疾患とされていて、私もセリアック病の患者をみたことはありません。セリアック病では消化器症状の他に、記憶障害、認知機能低下、てんかん、人格変化などの神経症状が現れることがあります。この著者は神経科医で、様々な神経症状の患者を診察する中で、原因不明の神経疾患を抱える患者の中にグルテン過敏症の患者がいて、グルテンフリーの食事指導をすることで、劇的に症状が回復した例をいくつか紹介しています。グルテン過敏症が関連する疾患として、注意欠陥多動性障害(ADHD)、アルコール性依存症、筋委縮性側索硬化症、自閉症、うつ病、糖尿病、関節リウマチ、心臓疾患、過敏性腸症候群、アルツハイマー病、統合失調症、パーキンソン病、てんかんなどを挙げています。著者はグルテン過敏症でなくても、現代人の健康、特に脳にグルテンが悪影響を及ぼしていると述べています。
グルテン依存の問題
 グルテンは胃で分解され、血液脳関門を通過できるポリペプチド混合物になります。これが脳に入り込むと、脳のオピオイド受容体と結合し、感覚的な恍惚状態を生み出すことが分かっています。ドーナッツ、スコーン、クロワッサンなどを食べた後に、もし急に楽しい気分になったことがあるなら、それは思い込みではないと著者は述べています。食品メーカーが製品の中に、できる限りたくさんのグルテンを詰め込もうとするのは当然で、多くの人がグルテンたっぷりの食品にやみつきになっていて、「グルテンは我々現代人のタバコ」と警笛を鳴らしています。
 今回三回目になりますが、『脳内汚染』という本から、メディア媒体が脳に及ぼす悪影響について紹前頭葉.jpg介いたします。中編では、ゲームが麻薬に匹敵する依存性があること、ゲーム開始年齢が低いほど子供の健全な成長に悪影響を及ぼしやすいこと、メディア媒体が現代人の心を幼くし自我理想像をゆがめていること、などを紹介しました。この後編では、メディア媒体と無関係で暮らすことができない現代社会にあって、どのような関わりが望ましいのかという著者の提言も含めて、お話しいたします。
ゲームやネットが前頭葉の機能を低下させる!
 人間が人間である一番のゆえんは、前頭葉、中でも最も前側に位置する前頭前野の発達です。前頭前野は人間の脳の約三分の一を占めており、サルから人間への脳の進化は、脳全体が大きくなったのではなく、前頭前野が前側にせり出す形で発達したことと考えられています。前頭前野の成熟は、他の脳の領域と比べて非常に時間を必要とし、大人になるまで発達し続けます。前頭前野は、対象を選択し、注意を維持し、目的をもった行動を行っていくとともに、様々な情報や情動を統合し、決断を下し、危険を回避し、行動をコントロールしていく、まさに「理性の座」というべき機能を担っています。
 寝屋川調査では、ゲームやネットを長時間やる子供たちにおいて、そうでない子供たちよりも、統計的に有意に高い割合で認められた前頭葉の機能低下に関係する項目十二が示されています。①「あまり考えずに行動したり、危険なことをしてしまう」慎重さの欠如。②「イライラしやすく、かっとなると暴言や暴力になってしまう」爆発性。③「じっと座っていることができず、たえず動きたがる」多動、抑制欠如。④「怒ったり、泣いたり、感情の波が激しい」気分易変性。⑤「反省するのは苦手である」自己反省力の低下。⑥「飽きっぽく計画的に物事ができない」無計画、持続的努力の困難。⑦「気が散りやすく、よそ見、忘れ物、ミスが多い」注意散漫。⑧「自分の興味のあることにゲーム時間と前頭葉機能.jpgは集中する」関心の限局性、固執性。⑨「人付き合いや集団は苦手である」非社交性、孤立傾向。⑩「一方的に喋ったり、場違いな発言や行動をしてしまう」共感性、状況判断力の低下。⑪「自分には特別なところがあると思う」自己中心性、責任転嫁。⑫「何事にも気力がなく、興味ややる気がわかない」無気力・無関心。
 これら項目に関する質問をスコア化し、平均得点を求めて「前頭葉機能スコア」とし、ゲームなどのメディア利用時間との関係をグラフにしたものを示します。図19が生徒本人による回答をもとに十項目より算出したものです。グラフを見ると、ゲームプレイ時間が長くなるにつれて低下が目立ち始め、三時間、四時間以上の子供では、顕著な前頭葉機能の低下がみられることが分かります。
ADHD、アスペルガー障害、学級崩壊の問題
 少し専門的な話になりますが、現代における子供たちの心の発達の問題にも触れておく必要があります。ADHDとは「注意欠陥/多動性障害」の略称ですが、今やADHDの子供が児童外来にあふれているようです。このタイプの子供たちは、授業中に周囲の状況と無関係に発言したり、立ち歩いたり、時には教室からいなくなったりします。クラスにADHDの子供が二、三人いると、授業が成り立たなくなる学級崩壊が起こりやすくなります。当初、ADHDは高い遺伝性のあることから、脳の構造的、生物学的要因に原因があると考えられてきました。ところが、この三十年程前よりADHDの子供が急速に増えたことから、遺伝性の問題だけではなく、環境的な要因が非常に大きく作用していると考えられるようになりました。
 ワシントン大学の小児科医のチームは、一歳と三歳の時にどれくらいテレビを観たかを調べ、その子供たちが七歳になった時点で、注意力の評価を行いました。その結果、一歳、三歳の時点でテレビによく接していた子供たちは、注意力に多くの問題があることが分かりました。テレビは絶え間なく場面が変わる性質を持つため、子供たちは魅入られたように画面を見つめます。ところが、そのために短いタイムスパンで注意を集中することに慣れ、長い時間の注意の集中が困難になります。テレビは便利なお守り役であるため、お母さんは家事の合間についつい子供にテレビを見せてしまいがちです。しかしながら、もともとADHDの素因を持った子供ではその症状を助長することになるため、注意が必要です。
 広汎性発達障害は、①対人関係における消極性、②相互的なコミュニケーションの障害、③興味や関心の限局性やこだわりの強さを特徴とする心の発達障害です。広汎性発達障害の中で、知能が正常範囲で、言葉の発達にも障害がみられないものを「アスペルガー障害」と呼び、男性では数%の罹患率で、現代では比較的よく見られる病気になっています。対人関係や集団生活が円滑にいかず、周囲の理解がないと孤立したり、いじめのターゲットにされることもあります。その一方で、集中力や狭く深い興味を活かして、研究者や技術者として成功することもあり、実際に、学者や研究者には、アスペルガー障害やその傾向を持った人が多いといわれています。
 ADHD、アスペルガー障害などの脳の発達障害がこれほど身近になったのはなぜでしょうか?著者は現代の若者が、前頭前野などの脳の発達にとってマイナスになるゲームなどのメディア媒体に、より早い時期からさらされているためと述べています。
メディア漬けから子供たちを守るには?
 つい先日テレビで、日本人のギャンブル依存症罹患率が世界一と紹介されていました。日本独特のパチンコが主要な原因と思いますが、何とも恥ずかしいデータです。また、2020年東京オリンピック開催に併せて、法律を改定してカジノを日本に作ろうという報道もされていました。経済効果は高いかもしれませんが、カジノを誘致すればギャンブル依存症の日本人を増やすだけですし、子供たちにも悪影響であることは目に見えています。良識のない日本人が増えていることを憂慮さぜるを得ませんが、そう言ってばかりもいられません。著者は、競馬やパチンコに適用されているルールが最低限必要だと主張しています。つまり、未成年者や学生に、高い嗜癖(しへき)性や有害な内容を含むゲーム、ビデオ、ネットサイトなどの利用を禁じる法制度の確立をすべきと訴えています。メディアを提供する企業としては、収益を優先させるあまり、このような法律の成立には抵抗があると予想されますが、現実に起きている子供たちへの被害や影響の大きさを考えると、その様な法律は必要ではないでしょうか。
 この『脳内汚染』の著者は、少年院に勤務する精神科医です。そのような背景もあって、心に問題のある子供達を施設静寂.jpgや病院で診る機会があり、大変興味深いことを述べています。たとえば、施設に来た子供たちが元気になり、社会性を回復していく上で、様々な働きかけとともに、ゲームなどが「できない」環境が重要な役割をしていると述べています。社会にいる時は毎日数時間をメディアに浸っていた子供たちは、代わりに現実の人間の中でもまれながら過ごすことになります。その体験は、一人でゲームをしながら部屋にこもっているよりも、不快でわずらわしいことに思えますが、そうした日々の中で、彼らは人と交わることの楽しさや喜びに目覚めるそうです。病院に入院した若者たちも、ゲームやネットが思うようにできない、好きな番組が「見られない」環境で、最初はイライラしたり、人となじもうともしませんが、そのうちに憑きものが取れたように表情が柔らかくなり、人との交流を楽しむようになるそうです。施設や病院の話は決して特殊な例ではなく、すべての燃え尽きた心の回復に当てはまると著者は言います。宗教的な場所であれ、修練のための場所であれ、そこには過剰な刺激と情報から守られた『静寂』があり、それによって程よく不足した状態が生まれ、そこから再び生きようとする力が蘇るのだという著者の言葉には説得力を感じます。
 一般の家庭ならテレビを付けっ放しにせず、見たい番組が終わったらさっさとスイッチを消す(これは私の親からされていました)、せめて出かけたり旅行に行った時は、ゲームやテレビはなしという取り決めをする、などは実行可能なことではないでしょうか。最後に印象的な著者の言葉を引用して、このシリーズを終わりにしたいと思います。
 『絶えず情報に脳をさらし続けることをやめ、刺激のない状態の静けさや、安らかさを、心と脳に取り戻してやることが大切なのだ。新たな刺激を際限なく求め続けることは、長期的に見れば、心をどんどん鈍麻させ、幸せを感じにくい心を作り出してしまう。ささやかな楽しみが楽しみとして感じられることこそが、幸せの本質なのである。』
 今回も『脳内汚染』という本から、メディア媒体が脳に及ぼす悪影響について紹介いたします。前編ではテレビの普及によって世界的に犯罪が増加したこと、ゲームやビデオが子供達に暴力を学習させ暴力に対する感覚低下を招いているということ、子供達に善か悪かという二分法的思考や悲観的な思考を植え付けているということなどをお話しいたしました。今回も、この本で大切な部分をかいつまんでお話しいたします。
子供部屋に侵入した麻薬
 ゲームの恐ろしいのは、麻薬にも匹敵した嗜癖(しへき)性であると著者は述べています。1998年権威ある科学雑誌『ネイチャー』に掲載された論文が紹介されています。ビデオゲームをプレイした時の脳内のドーパミンの放出量を調べたところ、コカインや覚醒剤が投与された時のドーパミン増加量に匹敵することが分かりました。ドーパミンとは気持ちいいと喫煙イメージ.jpg感じる脳内モルヒネの一つで、喫煙におけるニコチンの作用で脳内に多量に放出される物質です。麻薬患者が麻薬から離脱できない、喫煙者がなかなかタバコを止められないのと同様の嗜癖性が、ゲームにはあるのです。私にも経験があります。中学3年生の時に趣味であった天体観測のためにパソコンを買ってもらいました。このパソコンで、当時ローリングプレイゲームの走りであった『ザナドウ』というゲームにはまり、夜更かしをしてゲームに興じていたことを覚えています。受験生でもあったのでこれはいけないと思い、必死の思いでゲームを封印しましたが、この時の辛さは私が30歳頃に果たした禁煙と同じ感覚だったように記憶しています。
 ゲーム依存が大きな拡大を遂げた理由の一つとして、保護者の側に、テレビやビデオの長時間見過ぎることへの警戒心はあっても、ゲームに対しては比較的警戒心がなかったことを挙げています。確かに今でも、子供達へのクリスマスや誕生日プレゼントの重要な候補は、ゲーム機器やゲームソフトですね。ゲームが二十年前と同じ技術水準で、ほどよく飽きてしまうものであればいいのですが、コンピュータ技術の急速な発展により、今やゲームは極めて高いリアリティと刺激に満ちた仮想世界を現実のものとしています。ずっと飽きが来ないほどにワクワク興奮する時に脳内で起きていることは、麻薬的な薬物を使用している時や、ギャンブルに熱中している時と基本的に同じことなのです。子供達にコカインや覚醒剤をプレゼントする親はいません。ところが実際には、麻薬的な作用を持つ「映像ドラッグ」を子供達にプレゼントしているのかもしれないと、この著者は警笛を鳴らしています。
ゲーム開始年齢が低いほど危険!
 寝屋川調査では、小学校に上がるまでにゲームを始めた子の割合が二四%、小学校一、二年に始めた子の割合が四五%で、小学校低学年までに全体の七割近い子がゲームをするとの結果が出ています。ゲームを早く始めた子では、中学になっても長時間ゲームをする傾向がみられ、また、ヘビーな依存症状がみられるケースでは小学校に上がる前にゲームを始めた子が多いとの結果も出ています。さらに懸念されることは、ゲームを早くから始めた子では、現時点でのゲテレビゲーム②.jpgーム時間に関係なく、様々な問題点がより強くみられると指摘しています。「あまり考えずに、危険なことをしてしまうことがある」、「何事にも気力がなく、興味ややる気がわかない」、「人の気持ちが分かりにくく、ずれてしまう」、「注意が散りやすく、よそ見や忘れ物、ミスが多い」、「友達とケンカしたり、絶交したりが激しい」などです。また、ゲームを小学校に上がる前に始めた子では、現在ゲームをあまりしない子でも、勉強時間が短く、休憩時間以外に友達と遊ぶ時間も短い傾向がみられています。
 就学前という人生早期の、脳の最も重要な形成段階で、ゲームや刺激の強いメディアに容易に触れることは、後に思ってもみない災いを引き起こしかねないのです。保護者は、お子さんの大切な人生が、その準備段階で損なわれることのないように注意すべきといえます。
損なわれる心の発達と幼くなる現代人
 ゲームが子供たちの社会的成長に及ぼす影響について、著者は二つのことを述べています。一つは、ゲームで遊ぶこと自体が、子供の心や脳の発達に及ぼす悪い影響です。もう一つは、ゲームで遊ぶ時間が増えることにより、子供が友達と交流する遊びの中で、社会的なスキルを高め、共感性や他者に対する配慮や常識を身につける機会が奪われているという影響です。
 最近の中学生、高校生、さらには社会に出る年齢の若者においてさえ顕著にみられる傾向は、「幼くなっている」ことだと述べています。突発的な事件を起こした子供すべてにおいても当てはまるといいます。彼らの心は十代後半にあっても、ある部分において、六~八歳の子供たちの特徴的は傾向を示しています。その特徴は次の五つです。①現実と空想の区別が十分でなく、結果の予測能力が乏しい。②相手の立場、気持ちを考え、思いやる共感能力が未発達である。③自分を客観的に振り返る自己反省が働きにくい。④正義と悪という単純な二分法にとらわれやすく、悪は滅ぼすべしという復讐や報復を正当化し、その方向に突っ張りやすい。⑤善悪の観念は、心の中に確固と確立されたものではなく、周囲の雰囲気やその場の状況に左右される。小学校低学年レベルから高学年レベルへの心の成長がうまく起こらないまま、それが中学になっても、高校になっても、青年になっても続いている、つまり現代においては、人々の心がどんどん幼くなっているという相当深刻な状態があります。そこには、現実の存在よりも、メディアが提供する、単純化された仮想の存在に親しみすぎた世代の弱点が露呈していると著者は述べています。
メディアによって自我理想像がゆがめられている
 有史以前より人間にとって四歳からの成長として大切なのは、母親の膝元を徐々に離れ、同年代の子供達と遊び、父親や年長者に連れられて、新しい体験の場へと出向くことです。特に、父親との関係が重要と考えられています。ところが現代の子供達では、この時期になると、メディアとの接触が急速に存在感を増していきます。子供が自ら進んで求める場合もあれば、親や大人の方から与える場合もあります。親や大人達は、自分で子供の相手をする代わりに、メディアに読書親子.jpg子供の相手をしてもらおうとします。本を読んだり話を聞かせるよりも、ビデオを見せた方が手っ取り早いし、子供も喜ぶ。外で体を使って遊ぶ相手をするよりも、ゲームをさせておいた方が、親も休日をのんびり過ごせるし、子供も機嫌がいい・・・私の小さい頃(四十年以上前ですが)を思い出してみると、ビデオやゲームはありませんでしたから、暗くなるまで友達と外で遊びまわっていたし、家では何かしら弟と遊びを探して過ごしていました。冬の寒い時期は、休日には必ず両親にスキーに連れて行ってもらいました。ところが、私の子供達(高校生、大学生ですが)の小さい頃は、どうだったでしょうか。前述にあったようにメディアに子供達の相手をしてもらうことが多かった・・・今になって反省します。
 著者はこうした現代の当たり前の習慣が、かなり恐ろしいことを起こしていると憂慮しています。つまり、人生を決定づけるといっても過言でない自我理想像を形成する段階において、子供たちは父親や母親、学校の先生、歴史上の偉人ではなく、メディアの中の存在を理想像として心に刷り込んでしまうのです。超人的な戦闘能力で敵をなぎ倒すヒーローであったり、魔法の力で何でも思い通りにしてしまう便利な存在だったりをです。なぜ、現代の子供達が父親や母親に対して、尊敬や親しみさえ抱かず、まるで異物に対するような目を向けて平然としているのか、冷酷に暴力をふるうことさえ平気でしてしまえるのか、根本的な原因がここにあると著者は指摘します。マンガやアニメの主人公、映画やドラマの俳優のようなパーフェクトな存在に理想を求め過ぎれば、現実の存在はあまりに不完全な存在です。メディアによって自我理想像がゆがめられると、現実の存在に対しては、相手の不完全な部分にばかり注意を向け、否定的でシニカルな見方をしてしまうのです。
 メディアが発達したことで、私達の生活は大変便利になりました。しかし、その反面で、人間の心を豊かにするという大切な面が著しく脅かされていると感じます。紙面の都合上、『脳内汚染』で語られていることを、次回もお伝えしたいと思います。 
 私たちの周りにあるテレビ、ビデオ、テレビゲーム、インターネット、携帯電話などのメディア媒体は、現代人にとって今や必須アイテムになっています。先日、飯田線に久しぶりに乗って感じたのは、車内風景の様変わりです。私が高校へ電車通学していた頃は、友達と会話するか、試験直前なら学習書にかじりついていたものです。今や、携帯電話(ほとんスマホ.jpgどスマホでしょうか)でメールやラインをしたり、ゲームに興じている高校生の多くを目にします。電車車内に限らず家庭においても、メディア媒体があふれていて、高校生に限らず、小中学生も大人も、幼児でさえもテレビ、テレビゲームなどと接する機会が多くなっています。一日の時間には限りがあるわけですから、当然、家族間の会話も少なくなるのは当たり前なのでしょう。
 最近、『脳内汚染』という本に巡り合いました。少年刑務所に勤務する精神科医岡田尊司が書いた本です。タイトルから想像できるように、現代において、いかにメディア媒体が私たちの心をむしばんでいるかという内容です。私としては大変ショックと感銘を受けた本でした。メディア媒体すべてを否定するわけではなく、メディアが発する情報内容や接する時間が過度になると、脳が脅かされるというお話です。私なりに咀嚼して、皆さんにご紹介いたします。
犯罪の若年化、凶悪化が全世界的に起こっている
 この本では、日本や海外における子供による犯罪がいくつも紹介されています。1997年神戸で起きた14歳の少年による連続殺傷事件(酒鬼薔薇聖斗事件)では、小学生2名が死亡、3名が重軽傷を負いました。皆さんの記憶にも鮮明に残っているかと思います。アメリカなどからは、少年が銃を使って友達や教師を無差別に殺傷する事件も聞こえてきます。2005年大阪府寝屋川市では、17歳の少年が母校の小学校教諭3名を殺傷した事件がありました。この事件を契機にして、寝屋川市などでメディアの若者たちへの影響を詳しく調べた大規模なアンケート調査(寝屋川調査)が行われました。この本では、この寝屋川調査や海外での調査結果がいくつも示されています。調査結果のいくつかを紹介していきます。
テレビがもたらした犯罪や子供達への影響
 米国疫学コントロールセンターの疫学者センターウォール博士らが1992年に発表した論文での結論は、1960年代以降の犯罪の増加は、テレビの影響に帰せられるというもので、次のように述べています。「テレビの技術が発達しなければ、アメリカにおける殺人の件数は、一万件少なくなり、レイプの件数は七万件少なくなり、障害の件数は七十万件少なくなっていただろう。」と。米国のイーオンとヒューズマンが行った八歳から三十歳になるまでの二十二年間にも及ぶ八百七十五人の追跡調査では、次のような驚くべき結果が分かりました。三十歳の時点での攻撃性の強さは、今の時点でどれだけテレビを見ているかよりも、八歳の時点でどれだけテレビを見ていたかに大きく左右される。さらに、八歳の時点でテレビをよく見ていた子供は、その後自らが父親、母親になった時、テレビをあまり見ていなかった人に比べて、子供をより厳しく罰する傾向がみられた。これらの研究は、テレビの影響が、大人よりも小さい子供を直撃しやすく、しかも、その影響は二十年後にまで及び、犯罪行為や子供を育てる態度にまで影を落とすことを示しています。
 テレビ鑑賞.jpg一昔前に比べると、マスコミも暴力的な場面を含んだ番組を控えるようにはなっていると思います。ただ、人が当たり前のにように死んでいくアクション映画やアニメの放送、お笑いタレントを身体的にいじめて笑いを取るような番組が横行しています。テレビのすべてを否定するわけではありませんが、大人達は番組の内容に注意を払い、特に小さな子供達には暴力的な場面を見せないようにすべきと思います。
ゲームやビデオの子供達への影響
 1990年代からテレビ以外のメディア媒体として家庭用ゲーム機やレンタルビデオが登場するようになりました。子供達にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。米国で行われた中学校2年生、3年生六百人あまりを対象にした研究では、暴力的なゲームやビデオに接触する機会が多い子供ほど、より敵意に満ち、教師とより頻繁に口論し、肉体的な暴力沙汰に関与しやすく、学校の成績も不良であるという結果が示されました。また、映画やビデオにおける受動的な暴力シーンの体験よりも、ゲームにおける能動的な関与が行われることにより、暴力の学習という点においては、子供達への影響が深刻であるという結果が示されています。
メディア媒体がもたらす二分法的思考
 ダーティ・ハリーが犯人をバズーカ砲で吹き飛ばしたり、ランボーが腐敗した権力の手先の顔面に拳を叩き込み、首をへし折る。悪い敵を叩きのめすためなら、暴力は正当化され、賞賛すべき行為として描かれています。ところが、この悪い敵であっても、愛すべき守らなければならない家族があるはずですが、そういった背景は無視されます。悪い敵は単純にランボー.jpgやっつけられればいいという物事のとらえ方、つまり、世の中は善か悪、味方か敵しかないという二分法的な考え方を、この本の著者は問題視しています。
 寝屋川調査では、ゲームを長時間する子供では、「人は敵か味方かのどちらかだと思う」と答えた子供の割合が、ゲームをあまりしない子供での割合より、約二・五倍多かったという結果が示されています。この二分法的な考え方が、いじめという問題にも反映されています。何か自分たちと違う所がある存在を見つけて、それを「単純化された悪」とみなして排斥し、執拗に攻撃を加え続ける、しかもその行為が悪を排除する正義を行うような錯覚に陥っている行為、それが「いじめ」の本質と述べています。思い通りになる存在を「良い存在」、思い通りにならない存在を「悪い存在」とみなし、「良い存在」もひとたび思い通りにならなくなると「裏切られた」と感じ、攻撃の対象になってしまう。愛している者を殺してしまうという類の事件の増加は、まさに二分法的な思考を抱えた人が増えている結果に他ならないという著者の主張は、的を得たものと思います。
暴力的な映像がもたらす感覚低下、悲観的思考
 映画や漫画などでは、ドライで同情や愛情さえ持たず、徹底的に自己中心的で冷酷であることがむしろ魅力的なものと思われる新たなヒーローが生まれています。こうした暴力的な場面にさらされることによって、人々の心に起こる変化は感じないことであり、さらに感じないことが美徳とみなされるようになりました。虐待を受けて育った子供は、自分の苦痛に対しても他者の苦痛に対しても無頓着な傾向がみられます。そして、自らが冷酷なことを平気でするようになる。これは、暴力に対する感覚低下の結果といえます。
 暴力的な映像に過剰にさらされることのもう一つの影響は、世界や人間というものを、悲観的に、危険で、希望のないものであるとみなす傾向を植え付けてしまうことであると、著者は述べています。寝屋川調査では、ゲームを三時間以上する子供では、ゲームを一時間以下しかしない子供に比べて、「人が信じられないことがある」と答えた子の割合が二倍強でした。また、「傷つけられるとこだわり、仕返ししたくなる」と答えた子供も、同じく二倍強の割合でみられています。いくら学校で、世界や人間への肯定的な見方を学ばせても、日々垂れ流しされている暴力的な映像が、そうした努力を台無しにしています。元来、子供達は将来に対して楽観的なヴィジョンを持ち、希望にあふれているものです。最近の子供達に広まっている、人生や他者に対する悲観的で冷めた態度は、暴力的な映像にさらされ続けた結果だという著者の主張は、非常に納得のいくものです。大人たちはできる限り、子供達が暴力的な映像やゲームに接触しないように注意を払うべきでしょう。

 食べ過ぎたり、飲み過ぎたりした時、「胸焼け」を感じた経験は、多くの方が持っているかと思います。みぞおちの辺りから胸の下の方にかけてチリチリした熱くなるような不快感、のどの方まで熱さがこみ上げる感じ、これが「胸焼け」です。ピロリ菌感染の多かった日本人では、欧米人に比べて逆流性食道炎が少ないと言われてきました。昔に比べて公衆衛生が改善し、ピロリ菌感染率が低下したこと、食事が欧米化し、胃酸分泌を促す脂肪分の多い食事を摂取する機会が多くなってきた現代日本では、逆流性食道炎の患者さんが増えてきています。今回は、逆流性食道炎を取り上げます。
逆流性食道炎はなぜ起こるのか?
 食事をすると、食物を消化するために、胃の粘膜は消化液や胃酸を含んだ胃液を多胸やけ.jpg量に分泌します。胃液は強い酸性のため、健康な胃では粘膜に付着した粘液が胃粘膜を酸から保護しています。ところが、食道の粘膜は粘液が乏しく、酸に弱いため、胃液の逆流によって簡単にただれてしまいます。これが、逆流性食道炎です。
 胃酸の分泌を促す油っぽい食事、アルコールやコーヒーなどの食品を摂取し過ぎると、起こりやすくなります。もう一つ逆流性食道炎が起こりやすくなる理由としては、食道と胃のつながり目にある下部食道括約筋の低下があります。下部食道括約筋は、食事を摂取して食道から胃に食塊が通過する際にゆるんで、それ以外の時は、胃内容物の食道への逆流を防ぐために締まっています。加齢や肥満、アルコールの過剰摂取などにより、下部食道括約筋の働きが悪くなると、逆流性食道炎が起こりやすくなります。
 内視鏡で観察すると、食道下部が乳白色に変色したり、赤くなったり、さらに、食道粘膜が脱落して、びらんや潰瘍を形成する場合もあります。内視鏡医を20数年務めてきた私が感じるのは、以前に比べて逆流性食道炎が増えているということです。欧米での逆流性食道炎の罹患率は成人では約40%と言われていますが、日本でも逆食画像.jpgそれに近づいている印象があります。
胃酸逆流症状にはどんなものがあるか?
 胃酸逆流症状としては、胸焼け、胸痛の他に次のようなものがあります。口の中まで酸っぱい液がこみあげる呑酸(どんさん)、食道上部でのつかえ感、のどの痛みや違和感、声かれ、逆流した胃酸を気管支に吸い込んでの咳き込み、耳の痛み、狭心症のような心臓の痛みとして感じるなど、患者さんが胃酸逆流と気がつきにくい症状もみられます。
逆流性食道炎からバレット食道、食道癌へ
 食道粘膜は扁平上皮という上皮から成っていますが、逆流性食道炎が慢性化すると、食道上皮が胃の上皮と同じ円柱上皮に変化することがあります。これをバレット食道といいます。食道上皮はどちらかというと白っぽい色合いですが、バレット食道になると少し赤みのある色合いに変化します。バレット食道は欧米人に多く甘いもの.jpgみられ、食道癌になりやすい状態と考えられています。日本でも欧米なみに逆流性食道炎の患者が増えている現状ですので、今後は食道癌が増加することが心配されます。
逆流性食道炎を予防する五カ条
 私がいつも逆流性食道炎の患者さんに話すことです。
①胃酸が出やすい食品を控えましょう。油もの、甘いもの、辛いもの、コーヒーなどカフェインの多いもの、コーラなどの炭酸飲料、アルコールなどです。
②食アルコール.jpgべてすぐに横にならないように、食べてすぐに腰をかがめる仕事をしないようにしましょう。どうしても横になりたい時は、頭を高くするか、右を下にして寝ましょう。
③ゆっくり食べ、食べ過ぎないようにしましょう。
④腹圧を上げないため、重いものを持たないようにしましょう。前屈みを避け、ベルトを強く締めないようにしましょう。排便時に力まないようにしましょう。
⑤肥満の解消に努めましょう。
逆流性食道炎の治療
 胸焼け症状の出やすい患者さんや内視鏡上、食道に中等度の炎症所見がある場合、薬物療法を行います。
①プロトンポンプ阻害薬。第1選択で使われる強力な胃酸分泌抑制剤です。タケプロン、ネキシウム、オメプラール、パリエットなどがあります。再発や再燃を繰り返す患者さんでは、生涯内服が必要な場合もあります。
②H2ブロッカー。前記より胃酸分泌抑制作用は弱く、維持療法として使用されることが多い薬剤です。ガスター、ザンタック、プロテカジンなどがあります。
③食道粘膜保護剤。食前に内服し、食事の前に食道粘膜を胃酸から保護する薬です。アルロイドG(ドロっとした水薬)がよく使われます。
④消化管機能改善剤。胃腸の蠕動運動を促進することで、胃液を早期に十二指腸に送りこみ、胃酸の食道への逆流を予防します。ナウゼリン、ガスモチン、アボビスなどがあります。
ピロリ菌の除菌と逆流性食道炎
 ピロリ菌除菌治療の一番の弊害として、逆流性食道炎があります。なぜ、ピロリ菌を除菌すると、逆流性食道炎が起きやすくなるのか・・・2つの理由があります。ピロリ菌感染による胃炎状態では、胃酸の分泌が低下すること、そして、ピロリ菌は強い酸の海である胃内で生き抜くために、自分の周りをアルカリ性にして酸を中和している性質があるからです。つまり、ピロリ菌がいなくなると、胃酸分泌が亢進し、さらに、胃の酸度が上がるために、逆流性食道炎が起こりやすくなるわけです。ピロリ菌を除菌した患者さんの1割程で胃酸逆流症状がみられますが、しばらくすると症状が軽快することが多いようです。ただし、ピロリ菌を除菌したがために、胃酸逆流症状が持続し、胃酸分泌抑制剤の内服を続けなければならなくなる患者さんもいます。そういった点もよく考慮して、ピロリ菌の除菌治療の適応を決めるべきだと思っています。

 題名を見て「何のこと?」と思われる方が多いと思います。私自身も最近になって、テレビや新聞で知った疾患概念です。前回まで3回に渡って「老けない太らない体を作る」というテーマで、筋トレの大切さをお話しいたしました。この話とも関わりのある疾患概念ですので、紹介いたします。
ロコモ症候群とは?
 正式にはロコモティブ・シンドローム(以後はロコモと略します)で、日本語では「運動器症候群」といいます。2007年に日本整形外科学会が提唱したものです。『加齢に伴う筋力の低下、関節や脊椎の病気、骨粗鬆症などにより運動器の機能が衰えて、要介護・要支援の状態や、そうなるリスクの高い状態』を表す言葉です。ロコモを予防し、要介護・要支援を減らそう、高齢者が心身ともに自立して暮らせる期間である『健康寿命』を伸ばそうという、日本整形外科学会が主導している取り組みです。
ロコモはなぜ重要なのか?
 要介護・要支援認定者は、10年前に比べて約2倍にも増加しています。その主な原因として、第1位は脳卒中(21・5%)、第2位は認知症(15・3%)ですが、転倒・骨折、関節疾患など運動器疾患を原因とするロコモは合計で22・9%と脳卒中に匹敵する割合になっています。脳卒中などからの要介護や寝たきりを防止するために取り組まれているのが、メタボリック・シンドローム(メタボ)の予防ですが、前述した統計からは、メタボの予防だけではなく、ロコモの予防も重要なことがわかると思います。
ロコモの原因、主な病気は?
 ロコモは骨・関節・筋肉などの運動器の障害に起因する疾患です。主な原因ロコモ体操1.jpgは2つで、「骨や関節の病気」と「筋力・バランス能力の低下」です。「骨や関節の病気」の代表格が、骨粗鬆症、変形性関節症、腰部脊柱管狭窄症で、皆さんよく聞き覚えのある病気と思います。
 骨粗鬆症は、骨が弱くなって軽い衝撃でも骨折してしまう、閉経後の女性に多い病気です。骨密度を測定すれば簡単にわかります。当クリニックでも、かかとの骨の超音波測定による骨密度測定が可能ですので、心配な方は声をおかけ下さい。変形性関節症は軟骨の加齢が原因で、膝関節や股関節に負担がかかることで痛みが出て、歩行障害を来します。
 腰部脊柱管狭窄症は、椎間板の変性、靭帯や椎間関節の肥厚、椎体のずれなどにより、文字通り、脊柱管が狭くなって、脊髄神経が慢性的に圧迫され、神経に沿って走る血管の血流低下が起こる病気です。症状としては、下肢のしびれや痛み、歩行障害、感覚障害によるバランス力の低下や下肢の筋力低下などがみられます。
 これら骨や関節の病気は、薬物や手術などの治療が必要になります。病気ではなく、「筋力・バランス能力の低下」の方は、自分でチェックすることができます。
7つのロコモチェック
 日本整形外科学会が2010年度に発表したものを次に挙げます。
①片脚立ちで靴下がはけない。
②家の中で、つまロコモ体操2.jpgずいたり、滑ったりする。
③階段を上がるのに、手すりが必要である。
④横断歩道を青信号で渡りきれない。
⑤15分くらい続けて歩けない。
⑥2㎏程度の買い物をして持ち帰るのが困難である。(1リットルの牛乳パック2個程度)
⑦家のやや重い仕事が困難である。(掃除機の使用、布団の上げ下ろしなど)
 上記の1つでも当てはまれば、ロコモである心配があります。日本整形外科学会では、開眼片脚立ち、スクワットの2つの運動(ロコトレ)とともに、ストレッチ、関節の曲げ伸ばし、ラジオ体操、ウォーキング、各種スポーツなどのその他のロコトレを積極的に行うことを推奨しています。2つのロコトレの方法を図で紹介いたします。
サルコペニア肥満って何?
 筋肉は老化や運動不足などで使わない状態が続くと衰えて細ります。「サルコ」は筋肉、「ペニア」は減少という意味です。筋肉の量が減って、体の機能が低下した状態に、肥満が加わったものを『サルコペニア肥満』と呼びます。男女ともに60代でサルコペニア肥満が増え始め、70代以上になると約3割の高齢者が該当、男性よりも女性に多い傾向があるようです。女性では閉経すると内臓脂肪がつきやすくなり、そこに筋肉量の減少が重なることが原因と考えられています。
気づきにくいサルコペニア肥満、何がこわい?
 サルコペニア肥満がやっかいなのは見た目では分かりづらいということです。下の写真は身長も体重もほぼ同じ70代男性の太もものMRI画像です。右の正常な人では、筋肉の回りの脂肪(白い部分)は少なめです。ところが、左のサルコペニア肥満の人では、太ももの太さは同じですが、筋肉が少なく回りの脂肪が非常に多くなっています。見た目では気づきにくいことが分かると思います。
サルコペニア大腿骨.jpg サルコペニア肥満の判定方法はまだ確立したものはないようです。一つの目安として、市販の体組成計で、筋肉の割合が男性では27・3%、女性では22%に満たない場合、あるいは体格指数のBMIが25以上の場合、サルコペニア肥満といえるようです。
 サルコペニア肥満になると、高血圧になる危険度が2倍に上昇し、放置すれば様々な生活習慣病を発症するようになります。さらに、歩行中に転倒しやすくなり、骨粗鬆症を併発している女性では骨折を来し、寝たきりになる場合もあります。
サルコペニア肥満の予防と解消
 サルコペニア肥満の予防と解消は、筋力アップと脂肪を減らすことに尽きます。特に下半身の筋トレが重要ですので、この紙面で紹介しているロコトレ、開眼片脚立ちやスクワットを積極的に行うと良いでしょう。
 前回のシリーズでもお話した通り、筋肉量を取り戻すには、肉や魚などの動物性蛋白質を積極的に摂取することが大切で、効率を高めるためにサプリメントの「プロテイン」を利用するものいいかと思います。筋トレ後30分以内にプロテインを摂取するのは効果的です。脂肪を減らすには、筋トレに有酸素運動を組み合わせるのが効果的です。前回号でお話した通り、筋トレをやってから、ジョギングやウォーキングなどの有酸素運動を行うと、脂肪燃焼率を高めることができます。
 筋肉量は20代をピークとして、50代から急激に減少します。サルコペニア肥満は高齢者に多いタイプの肥満ですが、中高年のうちから注意が必要です。筋肉量が少ない人、体格指数が高めの人はサルコペニア予備軍と考えられますので、30代から50代の幅広い世代で筋トレに取り組む必要があると思います。
                                     【院長 前山浩信】

ワクワク長生き六箇条

 先月号よりクリニックに来院しているすべての患者さんに、この新聞を通して健康情報を発信していくことにいたしました。誰でもそうですが、大切なことであっても、繰り返し言われなければ頭に残らないものです。そこで、以前に新聞で取り上げたものでも、大切なことは繰り返して話していこうと思います。
 これまで私は、色々な健康に関わる本を読んで、その要旨を皆さんに伝えたり、自分でも実行してきました。これはいいと思って長続きしているもの、これはダメだなと思って止めたもの、色々あります。そんな中で、私が行きついたのが今回の表題『ワクワク長生き六箇条』です。先日十月四日、私が産業医を務めるナパックさんでこの表題で講演をしました。六箇条は下に示した通りです。

一、体に悪いものは避けるべし

二、体に良いものをバランスよくとるべし

三、早寝早起き、運動を習慣にすべし

四、体を中から温めるべし

五、笑顔をたやさず、感謝の気持ちを大切にすべし

六、ゆっくり呼吸、ゆっくり動き、ゆっくり生きるべし

 今後すずらん新聞では、毎回左の六箇条を掲載して、六箇条の一つを取り上げて話をするコラムを続けようと思っております。今回は一条と四条から一つずつ取り上げ、お話させていただきます。
一、体に悪いものは避けるべし
《トランス脂肪酸》
  「トランス脂肪酸」っていわれても、ピンとこない方が多いと思います。マーガリンのほか、市販の洋菓子類のほとんどに含まれています。また、子供が好むようなファーストフード、菓子パン、アイスクリーム、市販のドーナツ、カップラーメンなどにはトランス脂肪酸のかたまりであるショートニングが多量に使われています。飲食店で用いられている調理油にも含まれています。なぜ、トランス脂肪酸がいけないのか。それは、心臓病、糖尿病、子供たちで問題になっている注意欠陥多動性障害(ADHD)の発症率を高めることが科学的に証明されているからです。
 欧米や韓国ではすでにこのトランス脂肪酸の害は広く認知され、トランス脂肪酸を使用しない方向に規制が進んでいます。日本ではどうでしょうか?医師、看護師、栄養士の多くがこの問題に無関心で、放置されているのが実情です。確かに学校や病院で提供される給食に、何の疑いもなくマーガリンが出されています。海外では、クッキーの包装に「トランス脂肪酸ゼロ」と表示されることが多くなっています。国産クッキーでは、原材料の欄に小さく「植物油脂」と小さく表示されているだけです。植物油脂にもトランス脂肪酸は含まれています。
 日本ではマーガリン工業会が「現在の食生活であれば問題ない」という見解を公表し、国も同調して同じスタンスを取っています。世界の常識からは明らかにかけ離れた状態が日本では放置されています。自分の身を守るためにも、小さい頃からマーガリン、市販の洋菓子類、ファーストフード、菓子パン、アイスクリーム、カップラーメンなどはできるだけ摂らないようにしましょう。
四、体を中から温めるべし
 体の免疫力の中心になっているのが「白血球」です。人間の体温が1度下がると白血球の働きは30%以上ダウンし、逆に1度上がると5~6倍の働きをすると言われています。白血球がウイルスや細菌を攻撃して殺すことで炎症が起こり、その反応として発熱し、活躍してくれた白血球の残骸が鼻汁、痰といった症状として現れます。つファーストフード.jpgまり、風邪の症状は免疫細胞がよく働いてくれた結果であって、こうした反応を薬で止めてしまうと、免疫力が効率よく発揮できなくなります。高熱や痛みで大変な場合もありますので、私も風邪の患者さんに解熱鎮痛剤は処方しますが、発熱をすごく気にする患者さんには「お熱は体がウイルスや細菌をやっつけている大事な反応ですから、無理に下げない方がいいですよ。それでも大変だったら使って下さい。」と言い添えるようにしています。風邪を治す上で一番大切なことは、体を温めてぐっすり眠り、免疫力を高めることです。
ショウガの効能
 中国では、ショウガは漢方薬に欠かせない生薬として広く利用されてきました。漢方の原典というべき書物『傷寒論(しょうかんろん)』には、「ショウガは体を温め、すべての臓器の働きを活発化させる。体内の余分な水の滞りを取り除く。」と記載されています。さらに、医師が処方する医療用の漢方百数十種類のうち、7~8割にショウガが使われています。
 ショウガの成分の中で特に注目されているのが、ピリッとした辛みの主成分であるジンゲオールとショウガオールです。ショウガを加熱すると、ジンゲオールはショウガオールに変化します。ジンゲオールには血行促進作用や制吐作用、殺菌作用があり、また、ジンゲオールにもショウガオールにも、抗酸化作用(活性酸素を除去し、老化を防止する作用)があります。その他にも、免疫力アップ、鎮咳作用、解熱作用、鎮痛消炎作用、血液凝固抑制作用、抗菌・抗ウイルス作用、解毒作用など様々な効能が報告されています。
ショウガの活用法
 ショウガは、すりおろしたり、汁を絞ったり、刻むなど、どんな方法でも料理に積極的に使いましょう。ショウガは食材ですので1日の摂取量が決まっているわけではありません。ただ、刺激の強い食材ですので、一度に大量に摂るのは避けましょう。使用前に流水でよく洗って、皮つきのまま使用する方が、皮のすぐ下にあるが精油が摂取でき、ショウガの効能がより得られやすくなります。
 料理に積極的に使う以外に、お薦めなのが「ショウガ紅茶」です。私も寒い時期にはよく作りま紅茶.jpgす。これは、ショウガブームの火付け役である石原結實(ゆうみ)医学博士が自身の書籍やテレビ番組で紹介した方法です。熱い紅茶にすりおろしたショウガを適量入れ(親指大の一片、乾燥パウダーなら小さじ1、チューブなら約2cm分)、黒砂糖で甘みをつける簡単なものです。1日3~6杯飲むと良いようです。
 ショウガの積極的な摂取により体が芯から温まると、代謝が亢進して脂肪が燃えやすくなり、また、脂肪が付きにくい体質にもなります。全身の臓器が活発に活動し、腎臓の血流も良くなり、胃腸の運動も活発になるので、むくみや便秘の解消にもなります。皆さんもショウガを試してみてください。

今回は人生百年計画大作戦の最後です。内容が盛りだくさんですので、さっそく始めましょう。
倹約遺伝子と延命遺伝子
 人類の歴史は、天変地異、飢餓、感染、戦争の繰り返しで、その度に多くの人命が失われてきました。にもかかわらず、人類は生き延びています。南雲氏は、その理由として遺伝子.jpg人類が進化の過程で「生命力遺伝子」を獲得したからだと述べています。この「生命力遺伝子」の一つが、飢餓との闘いに対応するために生まれた「倹約遺伝子」です。少し食べただけでも脂肪が蓄えられる栄養効率を高める遺伝子です。私たちは「ちょっと食べれば太ることのできる」飢餓に強い人類の子孫といえます。飽食の現代にあっては、この「倹約遺伝子」は脂肪を貯め込むため、肥満、糖尿病、メタボリックシンドロームを引き起こしてしまいます。
 私たち人類は、飢餓の時に発現するもう一つの「生命力遺伝子」を獲得しました。なんと飢餓状態になるとこの遺伝子が活性化されて、全身の細胞にある遺伝子の異常をすべて調べて修復してくれるのです。延命をもたらす遺伝子であることから、「延命遺伝子」あるいは「長寿遺伝子」と呼ばれています。
腹八分目でなく腹六分目が長寿の秘訣
 食事の量が寿命にどう影響するかを調べた動物実験があります。あらゆる動物で食事量を増やしたり減らしたりしたところ、四十%減らした時が一番長生きで、平均1・5倍寿命が延びることがわかりました。昔から宗教では様々な形で断食が行われ、意図的に飢餓状態になることが勧められてきましたが、これは断食が不老長寿につながると経験的に分かっていたからと考えられます。一般的には「腹八分目」といわれていますが、「延命遺伝子」を働かせるには「腹六分目」を目指すことを南雲氏は推奨しています。
「一汁一菜ダイエット」のすすめ
 「腹六分目」を目指すために、南雲氏が勧めているのが「一汁一菜ダイエット」です。まず、毎日使っている食器を子供用のサイズに替えます。ごはん茶碗とみそ汁のお椀おわん.jpgを、子供用の「アンパンマン」の絵などが描かれているお椀のサイズに変えます。そして、おかずを盛りつける皿は、コーヒーカップを載せるソーサーくらいの大きさの物にします。ごはんと味噌汁、そしておかず一品で「一汁一菜」。食器の大きささえ子供用サイズであれば、肉でも揚げ物でも何を食べても構いませんし、混ぜご飯や具たっぷりの味噌汁でも構いません。ただし、おかわりと間食はしないことを必ず守るようにします。「一汁一菜ダイエット」を続けながら、毎日体重測定をしてグラフにして下さい。肥満傾向の方であれば、体重は一定の傾きで標準体重まで減少し、それ以上は減らなくなります。標準体重まで落ちたら、あとは記録をつけなくても構いません。元の食べ方に戻すとまた太り始めますから、一汁一菜を続けましょう。一汁一菜ダイエットをする過程で、体調も改善され、胃も小さくなり、腹六分目でも十分に満足できる体質になると南雲氏は述べています。
ゴボウのアクに若返りの秘密が
 ゴボウを水にさらすと、真っ黒な色が出てきます。アクとして洗い流すのが通常ですが、実はこれは「サポニン」というポリフェノールの一種です。漢方の万能薬として「朝鮮人参」はよく知られていますが、この朝鮮人参の主成分である「ジンセノイド」もサポニンの一種です。朝鮮人参は高価な生薬ですが、スーパーで簡単に買えるゴボウにも、それと変わらないくらいの薬効があるのです。ゴボウは土の中という過酷な環境で育ちます。リンゴやバナナを地中に埋めたら簡単に腐りますが、ゴボウは腐りません。なぜなら、サポニンに強力な防菌効果があるからです。具体的にはサポニンは、脂肪を吸着する界面活性作用によって、細菌やカビの細胞膜を構成しているコレステロールを分解する作用があります。このサポニンをゴボウ茶として飲めば、腸管内のコレステロールを排泄し、血中では悪玉コレステロールを吸着分解してくれます。
 もう一つ注目したいのが、ゴボウに含まれる「イヌリン」という成分です。イヌリンはムコ多糖類と呼ばれる食物繊維の一種で、優れた吸水性、利尿作用があります。むくみが改善し、便通も良くなるという効果もあります。
 南雲氏は、ゴボウは皮を剥かずに、アクも取らず調理して、サポニンやイヌリンという大事な成分も一緒に摂取すべきと述べています。毎食ゴボウを摂取するのは大変ですから、濃いめの「ゴボウ茶」を作って毎朝飲むことを勧めています。
ごぼう.jpg《ゴボウ茶の作り方》
①よく水洗いをして泥を落として、皮つきのまま包丁でささがきにする。②ささがきにしたゴボウを水にさらさず、新聞紙の上に広げて半日ほど(夏なら二、三時間)天日干しにする。③天日干しにしたゴボウをフライパンで十分程、油を使わずにから煎りする。④煙が出てくる寸前でやめ、そのまま急須に入れ、お湯を注げば出来上がり。
 二人分の急須なら、から煎りしたゴボウを一つまみで十分。ある程度まとめて作るなら、お茶用バックに大さじ二、三杯のゴボウ茶を入れ、四リットルの湯沸かしポットで沸かしましょう。冷蔵庫で保存すれば、一週間は持つようです。私も試しに作って飲んでみましたが、ゴボウの味がしますが、香ばしく飲みやすいお茶でした。皆さんも試してみて下さい。
早寝早起き(睡眠ゴールデン時間の活用)をしよう
 睡眠には「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」の二種類があります。レムとはREM(Rapid Eye Movement)の略で、眼球が急速に運動している状態を指し、レム睡眠では、寝がえりを打ちながら夢ばかり見て、一時間置きに目が覚めます。これに対して寝入りばなのノンレム睡眠では、眼球は一切動かず、泥のように眠っている状態で、脳は完全に休息し夢も見ません。
 実はこのノンレム睡眠の時に、脳の下垂体から「成長ホルモン」と呼ばれる若返りを促すホルモンが分泌されています。成長ホルモンが分泌されるのは「夜の十時から夜中の二時まで」の時間帯で、「睡眠のゴールデンタイム」と呼ばれています。この時間帯に眠らないと、いくらたっぷり睡眠時間を取っても、疲れが抜け切らず、知らないうちに老化が進むことになるわけです。ちなみに職業別で平均寿命が一番短いのは、看護師と言われています。夜勤勤務もある看護師は、睡眠のゴールデンタイムの恩恵を受けづらいからでしょう。睡眠時間を六時間取っている人が一番長寿と言われていますから、夜九~十時台に寝て、朝の三~四時に起きる早寝早起きの生活がベストといえます。南雲氏も、十時に寝て三時くらいに起きる生活を続けているようです。
心拍数をあまり上げない運動が大切
 人間の生涯心拍数は二〇億~三〇億回といわれています。二〇億回は平均寿命の八〇歳、三〇億回とはテロメアの限界である一二〇歳に当たります。普段運動をしていない人が急に走ったりすると、心拍数は急上昇し、心拍数を無駄使いしてしまいます。心臓に負担をかけずに、内臓脂肪を燃焼させる運動とな何でしょうか?南雲氏は「どうしてもスポーツをやりたい」という人に、次のように話すそうです。「まずいつも通っているスポーツジムまで歩いていって下さい。そして、ジムに着いたら中まで入らず、また歩いて家まで帰って下さい。」と。冗談のような話ですが、これなら心拍数が上がらず、心臓には負担をかけずに「第二の心臓」を使って運動することができます。「第二の心臓」とは「ふくはらぎ」のことです。心臓は血液を全身に送り出しますが、末梢から心臓へと血液を運んでくれるのが「ふくはらぎ」なのです。歩くことによって「ふくはらぎ」の筋肉が収縮して、そのポンプ作用によって末梢にとどこおっている血液を心臓に送り返してくれるのです。
 激しい運動はせずに、息が上がらない程度の歩きを続ければ、寿命を縮めることなく、基礎代謝を高めて脂肪を燃焼させ、メタボを改善することができます。さらに、血液のめぐりをが良くなることで、血栓症の予防、女性に多い足のむくみ・冷え・肩こりの解消につながります。南雲氏は、「第二の心臓」を使う歩きが、長生きするための味噌であることを強調しています。
若返るための六つの生活習慣
さて、紙面に限りがありますので、今までに触れなかったことも含めて、南雲氏が若返お茶.jpgりのために大切という六つの生活習慣をまとめます。この六つが実は「生命遺伝子」を活性化させる不可欠な要素というわけです。
①早寝早起き(睡眠ゴールデンタイムの活用)②完全栄養の摂取と一汁一菜で腹六分目の食事③薄着をして身体を内面から温める④朝一杯の濃いめのゴボウ茶⑤たくさん歩いて電車では座らない⑥スキンシップや感謝の気持ちを大事にする
 詳しくは南雲吉則著『五十歳を超えても三十代に見える生き方』をお読み下さい。待合室にも一冊置いておきます。さあ、みんなで健康な百歳を目指していきましょう!
         【院長 前山浩信】

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